桜月夜1

□002.携帯メール
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もうすぐ、桜の季節。
春になると心がざわめく。
嬉しい様な反面、何処か落ち着かない様な淋しい気分になる。
ぼんやりと物思いに耽っているところにピッと携帯がなった。
メールみたいなので、すぐ見てみるとはるかからだった。なんだろう?
ドキっとするなぁ。
その内容は今日のレースが終わったら、家に帰ってくるので一緒に夕飯を食べに行こうと書いてあり、 OKの返事をすぐに送った。
去年の誕生日にはるかに買って貰った携帯は紫色で同系色のラベンダー染めのストラップが揺れる。
私の大事な宝物なの。
ちなみに、はるかの携帯はメタリックブルーで青い絹のストラップに小さな金の王冠が揺れている。
それは去年のヴァレンタインに私がプレゼントしたの。
「ふふっ」
「ほたるちゃん、今日は何か楽しそうだね」
「うん。今日は久しぶりにはるかとディナーなの」
「じゃあ、久しぶりにはるかさんが帰ってくるんだね。良かったね。ほたるちゃん」
家に帰ると、玄関に見慣れたはるかの靴がある。
急に動悸がして、ちょっと緊張してくる。
「ただいま」
「おかえり。ほたる、逢いたかったよ!」
「私もよ」
はるかがギュッと私を抱きしめる。
はるか愛用のコロンの爽やかで甘い香りが馨る。
なんか懐かしくって、安心する。
嫌な事や不安で寂しかった事も消えていく。
ずっとこうして欲しかったの。
「ほたる、痩せた?元気ないね」
「えっ、そんな事ないよ」とは言ったけど、流石に鋭いなぁ。
「実は最近、元気がなかなか出なくって食欲ないの」
「そっか、じゃ、今から中華料理を食べに行こう。中華好きだろ?きっと、元気が出るよ」
「うん」
「いつもほたるには笑っていて欲しいなっ」
「はるか…」
その後は言葉にならなかった。
「じゃ、行こう」
「えぇ」
中華料理店に行く道の途中で、さっき言えなかった事をメールで送る。
”はるか大好き”と。
それを読んだはるかは赤くなったけど、私を優しく抱いてKISSしてくれた。
月の光にふたりの影が重なった。
春の夜風が優しく吹いた。

fin.
2002.3.12.



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