桜月夜1

□06.失敗作のケーキ
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静かな日曜日、みちるはソファでうたた寝をしてた。昨日までリサイタルの練習等があり、睡眠不足と疲れが一気に出た様だ。低血圧のはるかが起きて、シャワーを浴び終わって居間に入って来た時もまだ眠っている。「よっぽど疲れてるんだな」とはるかが毛布を掛けようとした時に、彼女が目を覚ました。「ごめん。起こしちゃったか。それにしても良く寝てたね」「えぇ。最近忙しくて疲れてたみたい。でも、もう復活したわ」「じゃぁ、こうするのも久しぶりだ」と言って、はるかはみちるを抱きしめ、kissをする。「もう、はるかったら」「だって、お姫様は王子のkissで目覚めるんだろ?」「そうよ。やけに今日はロマンチストね。でも嬉しいわ」甘く誰も入り込めない雰囲気が2人を包む。
その様子をドアの陰でほたるが見ていた。こんな雰囲気の時の2人には声が掛けれない。ほたるは、なんだか少し寂しくて泣きたくなった。ふと、壁の時計を見る。2時を過ぎた所だ。「そうだ。3時のおやつにパウンドケーキを作ろう。確か、小麦粉がまだあったし、あれなら家庭科の時間にも作った事があるから失敗はしないと思うのよね。美味しいのを作って2人を驚かせちゃおう」そう呟くとほたるは台所に駈けていった。
その頃、居間ではみちるとはるかがたわいのない話をしていた。「あらっ!そういえばうちの可愛いお姫様は?何をしてるのかしら?姿がさっきから見えないんだけど」「本当だ。いたずらしてなきゃいいけどな」そう言った瞬間、なんだかイヤな予感が2人の脳裏をよぎる。しばらくして、ガシャーンと何かが割れる音と泣き声がした。慌てて台所へ行くとほたるが泣いている。良く見るとすごい事になっていた。オーブンの周りには小麦粉が散らばっており、ケーキ皿も割れている。床にも破片があり危ない。みちるがこっちは掃除しておくからといった目配せを僕にする。僕は泣いているほたるを抱き上げて優しく、こうなった理由を聞く。「どうした?怒らないから言ってごらん」「あのね…。2人を驚かせたいなと思って、ケーキを焼こうとしたの。そうしたら、オーブンから出す時にケーキの型が熱くなっているのを、うっかり忘れていて、それを触った途端にケーキ皿の上に転んじゃったの。ごめんなさい」
「今度から気を付ければいいんだからね。あっ!それより手を見せてな。火傷してるじゃないか!これはかなり酷いな。痛いだろう?すぐに手当するからね。みちる、清潔なガーゼと包帯はあるかぃ」「えぇ、あるわ。取ってくるね」それを待っている間に火傷している所を氷水で冷やす。右の手首がかなり酷い。いつもは透ける様に白い手が赤く腫れていて痛々しい。そっと腫れた所にガーゼを貼り包帯を巻く。「はい。これでいいよ。念の為、明日病院へ行こうな」「ねぇ、はるか、私って何でこう失敗ばっかりするのかなぁ。どうしてみちるみたいに上手く出来ないんだろう」「ほたる、今の自分とみちるを比較しちゃダメだよ。みちるだって今のほたるぐらいの年の時はいろいろ失敗したと思うよ」「そうよ。私だって初めからお料理、上手くなった訳じゃないのよ。包丁で怪我をした事もあるわよ。ほら右手の甲にまだ薄く痕が残ってるわ。もうすぐ、ほたるだってなんでも出来る様になるんだから、自信を持っていいのよ」「そうなの?」「ほたるは、いつも頑張ってると僕は思うよ。」「本当!」「あぁ。頑張っているほたるは、誰にも負けないくらい魅力的で、そんな君が僕は大好きだよ!」「ありがとう。はるか」と言うとほたるは照れた様に微笑んだ。 その笑顔は世界で一番、可愛くて最高に愛らしくて、思わず抱きしめてしまう。ほたるは最高なんだよ。 fin.
2002.4.26.

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