桜月夜1

□09.孤独な夜
1ページ/1ページ

蒸し暑くて寝苦しい深夜、不意に目が覚めて、ほたるは突然の寂しさに襲われた。暗闇の中に独りで取り残される様な不安がじわじわと心の中に広がり、過去の嫌な記憶が次々と脳裏に甦り、体が震えて動けなくなる。怖い。誰か助けてと思った時、隣室から足音が聞こえた。部屋のドアがそっと開き、心配気な顔のはるかが入ってきた。「どうした?こんなに震えて。悪い夢でも見たか?」その言葉を聞くと、涙がポロリとこぼれた。私が何も言わなくても、はるかにはこの気持ちが伝わったらしく、まだ震えている体を、毛布ごと抱きしめてくれた。「いいか!ほたるは独りじゃない。僕も、みちるも、みんなだって居るじゃないか!」「うん」「でも、ほたるの気持ちは良く分かるよ。大丈夫?」「えぇ。ただ、誰も私の事を愛してくれない様な気がして、寂しくて堪らないの」「ほたる…、いつもそんな風に思っていたのか?馬鹿だなぁ。僕は君を愛してる。これからもずっと君の傍に居る。だから、もう1人で泣くなよ」はるかの温かく優しい言葉と肩を抱いてくれている手が、いつしか体の震えを止めて、冷たくて壊れそうになっていた私の心を暖かいモノで満たして、癒してくれる。さっきまでの寂しさがすっと消えた。はるかの腕にしっかりと抱かれている。嬉しいよぉ。勇気を出して、はるかの唇にKISSをすると、瞳が合った。思わず、2人で照れた様に微笑む。KISSは甘いけど微かに苦みの残るビターチョコレートの味がした。今、最高に世界で一番幸せだと思った。それだけで、もうきっと、これからどんな寂しさに襲われても負けないと思えたよ。だって傍に私を愛してくれる人が居るんだもの。 END.2002.5.10.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ