桜月夜1

□10.オレンジのKiss
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初夏の陽射しが心地良い午後。はるかは、居間のソファでぼんやりと空を眺めていた。もう夏の空だ。昨夜、遅くにやっと海外遠征から帰ってきたのだ。帰ってきた時は夜中だったからほたるには、まだ逢っていない。疲れと時差ボケでまだ少しボーっとしているが、最愛の人にもうすぐ逢えると思うだけで、疲れなんて吹っ飛んでしまう事が我ながら現金だとも思ってしまう。テ−ブルには、さっき作ったばかりのオレンジリキュールを数滴落とした、ダージリンのアイスティが置いてある。グラスの中の氷がカランと涼しげな音を起てた。「やっぱり、これは美味しいなっ!」そのアイスティは、今回の遠征中にスタッフから教わった飲み物を自己流にアレンジした物だ。あっさりした味と綺麗な琥珀色なのも気に入った理由の1つである。それを半分程飲んだ所で、玄関から元気な声がした。「ただいま〜。はるか!?帰っていたの?」「おかえり、ほたる。逢いたかったよ」「私もだよ。何時帰ってきたの?」そう言うと、ほたるが抱きつく。僕の方もこうして君を抱きたかったんだよ。遠い異国では、いつも彼女が恋しくなる。そんな時は、定期入れの中に入っている写真にそっとkissをするのが日課になっていた。「帰ったのは夜中だったから、君を起こさなかったんだ。ボストンバッグの中にお土産が入っているから見てごらん」「わ−い」無邪気に喜ぶほたるが、とても愛おしくて、可愛らしくて、僕は、世界で最高の宝物を見つけたと思った。彼女を優しく抱いてkissをすると、微かに甘いオレンジの味がした。ほたるが照れた様に微笑んだ。「今のkissすごく美味しい!もっと欲しいなっ」「あぁ。でも、この続きはまた後でなっ」これが最高の幸せの形かも知れないね。空になったグラスが汗をかいていた。 END.2002.5.22

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