桜月夜1

□12.蛍狩り
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宵闇にふわふわと淡い光が舞う季節になった。今夜、近くの河原でホタル祭りがある。はるかは、こっそり新調の浴衣を用意して、ほたるが学校から帰ってくるのを待っていた。事の発端は、数日前、TVで闇夜に群舞している蛍の光景を2人で観た。「蛍狩りか、そういえばしばらく生で観てないな。ほたるは、観た事あるかぃ?」「ううん、ないの。こうやってTVならあるけど。一回本物を観てみたいなぁ」「そうなのか?」そんな会話の後、はるかはインターネットで近くで蛍を観れる場所がないか検索してみると案外、近くの河原で数日後ホタル祭りがあるという情報がGet出来たのだ。「やっぱり、ほたるに本物を見せてやりたいもんな」はるかは、満足げにノートパソコンを閉じた。そして、和室に行き、和箪笥の中からあるものを探した。それはこの前、馴染みの店で買っておいた浴衣だ。ほたる用にと買っていたのは、薄い菖蒲色の蝶が裾に舞っている白い木綿地で帯は藍色だ。自分用にと買っていたのは、紺地に赤い小花が裾の所に散っている生地で、帯は濃い紫色だ。それを丁寧にアイロンをかけておいたのだった。 しばらくして、「ただいま〜」と声がした。「おかえり、ほたる。今日は暑かったね。お風呂沸いているからシャワーを浴びてきたら?」「うん。暑くて汗びっしょりになっちゃったの。浴びてさっぱりしてくるね」「あぁ、着替え戸棚の上に置いてあるよ」「はい」しばらくして、満面の微笑みのほたるが居間に入ってきた。「これ!どうしたの?」「気に入ったかぃ、浴衣」「もちろんよ。こんなのがずっと欲しかったんだよ。ありがとう、はるか」「どういたしまして。あっ!ほたる帯がずれてるよ。自分でやったのか?」「うん。いつもはるかが結ぶ様にやったんだけど、やっぱりヘンかな?」「最初にしては上出来だよ。でも、この結び方だと後で緩む事があるんだ。だから、一回、解いて直すよ」「うん」そうして帯を型くずれしないようにしっかりと蝶結びにした。「はい、出来たよ。ソファに座ってなっ。僕も着替えてくるよ」さっとシャワーを浴びて自分の浴衣を着た。「わぁ!はるか、大人っぽくて素敵ね」「サンキュ。ほたるもすごく可愛いよ。さて、蛍を観に行こうか?」「えっ!この辺でも観れるの?」「あぁ、君が観たいって言ってたから、探してみたんだよ」「嬉しい!」「綺麗だね」「ええ。なんだか夢を見ているみたいよ。素晴らしいわ」「そんなに喜んでくれると、僕も嬉しいな」もうそれ以上の言葉は要らなかった。幻想的な雰囲気の中でそっとKISSをした。君とここにこれて良かった。今夜の事は一生忘れられない想い出になった。来年もまた2人でこの景色を見たいと思ったんだ。
END.2002.6.13.

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