桜月夜1

□13.True Heart
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急に暑くなった夕方、絵の練習から帰ってきたみちるは、居間のソファにぐったりと座り込んだ。もうすぐ、個展が近い為に最近は絵ばっかり描いている。そういう理由で大好きなヴァイオリンもしばらく弾いていない。たまには弾かなければと思うのだが、疲れた体はなかなか思う通りに動いてくれなかった。少しの生活時間がずれるだけで、同じ家に暮らしているのに、はるかともすれ違いの日々が続いている。なかなか、一緒に夕飯が摂れなかった。だから今日こそはと思い、練習を早退してきたのだった。なんだか、自分の処理できるストレスが限界まで達していて、不意に泣き出しそうになった。その時、はるかが居間に入ってきた。「おかえり。今日は早かったんだね」「えぇ、なんか疲れちゃったから早退したの」「ふうん。どうしたの?何かあった」ギクっ!流石に鋭いな。「えっ!そんな事ないわ。平気よ」そう言い終わる前に、みちるははるかに抱かれていた。「ほら!君はいつもギリギリまで自分だけで頑張るんだから。もっと周りに甘えてもいいんだよ。全部が完璧にできなくてもいいんだよ」はるかの優しい腕の中でそんな言葉を聞くと涙がこぼれた。「なんで分かるの?そうよ。いつも完璧な自分を演じてきたわ。でも、ずっと寂しかったんだから」素直な気持ちも涙と一緒に次々とでてくる。「知ってるよ。だから、僕が居るんじゃないか。ねっ!」と言いながら、はるかはみちるの頬にKISSをする。「ありがと。はるか、元気が出たわ」「ふふっ。そんなみちるにご褒美があるんだ。はい、これ、開けてみてよ」「わぁ、何かしら」小さな箱から出てきたのは、繊細な作りの金と翡翠のリングだった。「嬉しい。着けてみていい?」「もちろん」サイズも指にぴったりで、はじめから体の一部だった様に馴染んだ。もう無理はしなくていいんだね。だって、ここに100%の自分を解ってくれる人が居るんだもの。ねっ!はるか。
END.2002.6.27.

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