桜月夜1

□14.晴れた夏の日
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カーテンを開けると陽射しはもう夏だ。青空に向かってちびうさは大きくおもいっきり背伸びをした。「今日も暑くなりそうね」と呟いて、買って貰ったばかりの白い麻地で薄いピンクの襟が付いた薄手のワンピースを着て、光の加減では、ピンクに見える時もある赤味かがった茶色の髪を三つ編みにする。「あれっ!あんたいつもと髪型違うじゃん」と後ろから聞き慣れた声がする。「たまには、あたしだって髪型ぐらい変えるわよ。それより、いつも言ってるけど部屋に入る時はノックぐらいしてよね。うさぎ」「ごめん。あっ!ちびうさ、あんた今日何か予定ある?」「うん。ほたるちゃんと駅ビルに買い物に行くんだ」「ふうん。あんた達はいつも一緒ねぇ」「うさぎこそどうしたの?何か用事?」「えっとねぇ、良い天気だし、まもちゃんも今日はバイトが休みなんだって。だから、3人でデパートにでも行かない?」うさぎは、いつになく照れた様に言った。「それなら、2人で行ってきなよ。あたしも、もう2人の邪魔をする程、野暮じゃないもん」「ちびうさ…」「あっ、そろそろ行かなくちゃ。じゃあね。うさぎ」と言うとちびうさは元気に駈けだして行った。「やっぱり、今日が何の日か忘れてるよね。まぁ、これが仕方のない事なんだろうけど、寂しいな」小さくなっていくちびうさの後ろ姿を見送りながら、うさぎがそっと呟いた。そう、今日は6月30日。うさぎとちびうさのW誕生日なのだ。その頃、ちびうさは駅ビルでほたるを待っていた。「さっきはうさぎに悪い事をしちゃったかな」心の奥がちょっとだけ疼いた。「ちびうさちゃん、待たせてごめんね。待った?」「ううん。今、着た所よ」「はい。お誕生日おめでとう!これ私が本を見て作ったの。今、流行のビーズの腕輪よ」「えっ!ありがとう。ほたるちゃん」「どうしたの?元気ないね。何かあったの?」「実は…」ほたるは一部始終を聞くとこう言った。「ねぇ、今日は帰った方がいいよ。私と買い物はいつでも出来るじゃない。ねっ!」「ほたるちゃん、本当にごめんね。プレゼントありがとう」「いいんだよ。気にしないでね」それから、ちびうさは帰り道を走った。なんでこんな大事な事を忘れていたんだろう。今日はあたしとうさぎの誕生日なのに。そんな自分が悔しくて涙があふれた。その時だった。「ちびうさ」と呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、そこには、衛とうさぎが立っていた。
「ごめんなさい。あたし…」涙でぐしゃぐしゃになった顔で呟く。「おいで!ちびうさ」とうさぎが手をつないでくれた。衛も反対側の手を繋いでくれる。やっと心の奥に疼いていたモノが溶けていった。まだ、今日の誕生日はこれからが本番だ。そう思うとちびうさの心も今日の夏空の様に晴れた。
END.2002.6.30.

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