桜月夜1

□17.銀月夜
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今宵は仲秋の名月。「わぁ!はるか、この薄!どうしたの?」「あぁ、ちょっとね」ほたるはその薄を大事そうに花瓶に活けた。「さて、今から月見団子を作ろうな」「うん」嬉しそうなほたると、台所へ行きかけたはるかにみちるはそっと囁いた。「去年みたいに無断で余所の庭から盗ってきたんじゃないわよね?」「違うよ。実はね…さっき実家に物を取りに行っていて、その後、庭で取ってきたんだよ」みちるも何回か彼女の実家には、遊びに行った事があり、そこには広い日本庭園があったのを思い出した。確かにあそこならあるわね。それにしても、ほたるの喜ぶ顔を見る為なら、日頃、滅多に帰らない実家へ薄を取りに行くのも厭わないなんて、なんてはるからしい。はるかがほたるを誰よりも深く愛しているという事をみちるは知っていた。それは、いつもはるかだけを見つめ続けているみちるだからこそ解るのだった。「ねぇ、みちるもお団子作ろうよ」「えぇ。今、行くわ」自分の分を作った後、ふと隣のを見た。それは小さくて所々不揃いの楕円形のお団子だった。「あっ!見たのか」照れたはるかが側に立っている。「それ、可愛いわね」「だって、月の女神に供えるんだもんな」「綺麗な銀の満月が見えるかしら?」「見えるさ」「2人共、月が出たよ〜」「うん。すぐ行く」縁側から3人で、美しい銀白色の満月を眺めた。こんな月を見ているだけで幸せな気持ちになる。側のはるかと瞳が合い、手が触れた。こんな静かで平和な日々が続く様にとみちるはそっと銀の月に祈った。
fin.2002.9.21

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