桜月夜1

□18.食卓の上の手紙
1ページ/1ページ

夕方、みちるがヴァイオリンの練習から帰ってくると家には誰もいない。いつもいる居間がやけに広く感じられる。「あぁ、そうだったわね。はるかとほたるは別荘に行っているんだっけ」今回は偶然にも、はるかのレースとみちるのリサイタルが明日、重なってしまって、やむなくみちるは留守番をする事になったのだ。レース会場から別荘が近くだという事もあり、体を慣らす為に今日から行っているのだ。世間ではちょうど、連休が続いて学校が休みだという事もあり、ほたるも連れて行ったのだった。今頃、2人で楽しくやっているのだろう。それを考えると急に、胸の奥がズキリと痛んで寂しさと疲れがドッとみちるを襲った。気分転換にコーヒーでも飲もうと思い、キッチンヘ行くと食卓の上に何かが置いてある。それは手紙だった。早速、開けてみる。それには、はるかの筆跡でこう書いてあった。”君がこの手紙を読むのは多分、寂しくなった時だろうと思ってこれを書いています。元気を出して!みちる。明日のリサイタル全力で頑張れよ!応援しているからね。はるか”その手紙を読んだ瞬間、涙がこぼれた。さっき淹れたコーヒーと手紙を持ってソファに座る。はるかには、私の事なんて全部お見通しね。でも、そんなさりげない優しさが嬉しかった。それと同時に、些細な事で子供みたいに嫉妬して拗ねてしまう自分が嫌になってしまう。コーヒーは冷めてしまっていたが、飲むと元気が涌いてきた。私は、今の最高に幸せな関係が大好きだ!これだけは壊したくないと思った。だから、2人が帰ってきたら心からの笑顔で迎えようとも思った。
END.2002.10.23.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ