桜月夜1

□19.With you
1ページ/1ページ

最近、急に寒くなってきた。普通の人でも布団から出るのが、おっくうな季節だ。それ+低血圧のはるかが起きてきた時には、もうみちるは出掛けようとする直前だった。「おはよ…二度寝しちゃったよ。出掛けるの?あっ!リハーサルか」「えぇ。本番が近いから抜ける事が出来なくて…。じゃ、いってきます」「無理するなよ、みちる」「うん。相変わらずはるかは心配性ね」パタンとドアが閉まった。この頃のみちるは公演と個展が近い為、準備に忙しそうだった。一方、はるかの方も昨日までは、モナコに遠征だったから、同じ家には暮らしてはいても、お互いに、最近はこうしたすれ違いの日々が続いていた。1人居間に残されたはるかは、眠気覚ましにとコーヒーを飲むと、ソファに座り込んだ。「はぁ〜」自分が寂しいのは仕方がない。だが、「あの分じゃ、今日が何の日かも忘れてるな」はるかはちょっと苦笑した。彼女は絵画でもヴァイオリンでも常に完璧を求める為に限界までいつも頑張りすぎてしまうのだ。それも、本人は倒れる限界まで無自覚であり、いつも笑顔だから普通に接している人ではきっと気づかないであろう。はるかだから解るのだった。「よし、みちるが帰ってくるまでにあの計画をやってみよう。驚いてくれるといいなぁ」そう呟くとはるかはキッチンへ向かった。そして、夕方みちるが帰ってきた。「ただいま。えっ!これは…!」「おかえり、みちる。どう?びっくりしただろ?」家中の床は全て磨かれて、純白のテーブルクロスが掛かった食卓テーブルの上には、みちるの好きなピンクと白の薔薇が活けてあり、美味しそうなフランス料理のフルコースが並んでいた。「まさか…これ、全部はるかが作ったの?」「うん。すごく頑張っているみちるに僕からのご褒美だよ。それと今日が何の日か覚えてない?」「えっ!急に言われても…」みちるは困惑した笑みを浮かべた。「今日はね、僕と君が初めて出会った日だよ」はるかが照れた様に呟いた。「やだ。私ったらすっかり忘れてたわ。ごめんなさい。はるか」「いいんだよ。それより、冷めないうちに食べようよ」「うん…」しばらくして、はるかは冷蔵庫からマリンブルーの色をしたカクテルを出してきた。「これ、さっき作ってみたんだけど、どう?みちると海をイメージして、本当はジンなんだけど、ブルーキュラソーにしたんだ」そう言い終わって目が合った。みちるの頬に光るモノがあった。「どうした?口に合わなかった?」はるかが心配気に問う。「違うの…。私、はるかの優しさが嬉しくって…」「みちる…。僕たちはこれからもずっと一緒だからね」はるかは最愛のみちるをそっと抱きしめてkissをした。ふたりでこうして暮らせるという事が、なによりも幸せな事なのだから。
 fin.2002.12.3.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ