短編

□その時まで
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星空の中、雪がふわふわと舞い降りる。
今日は大晦日。
今年も色んなことがあった。


だってまず、筆記模擬試験で2位をもぎ取ることが出来たのだ!
さすがに1位のアルミンとは100点差をつけられているが私にとってこれは大きい。アホのくせによくできたと思う。
そして、ミカサ直々に対人格闘を挑むようになった事。去年までの私には考えられないが、ある目的のためにミカサに近づくことにした。(技術もついて一石二鳥だし)
その目的とは。



「 来たな、サラ。始めようぜ 」



何を隠そう、死に急ぎ野郎ことエレン・イェーガーである。
私はもっぱら彼に夢中なのだ。
一目惚れだ。もうほんと君の瞳にカンパイってくらいに。


「うん!じゃあさっそく前回の復習しよっか!」
「げっ…やってねぇよ…」


私達は多くて週2回、こうやって空き部屋を使って勉強している。もちろん先生役は私でエレンは生徒。
彼はいつもテストの点が芳しくないので、見かねたアルミンが「エレンに教えてあげてくれないかな? サラは最近成績がいいからね。」 と頼みに来たのだ。
かぶせ気味にOKを出したのは言うまでもない。
ちなみにミカサに近づいたのは、よくエレンと一緒にいるため喋る機会が増えると思ったから。



真剣に問題に向かう眼差し。
子犬のような大きな目はランプの灯りを受け、より一層綺麗に見えた。
この横顔を見つめるのがとても幸せを感じられる時間だ。

キュッキュッキュッ…

「すごいじゃん!前回のほとんどあってるよ!」
「ほんとか!よっしゃあ!」
「頑張ったエレンにはなんと……」
「ん、なんかくれるのか?」
「私からの熱い抱擁をプレ」
「なぁちょっと見ろよ、すげー雪降ってる」

私からのラブコールも毎度スルーされる。トホホ
このノリがいけないって頭では分かってるんだけどなぁ…

「あ、ほんとだすごい雪……」
「だろ?」

真っ黒な空から真っ白な雪がふわふわと落ちている。
窓を開けて手を伸ばせば、掌に柔らかな結晶が乗った。

「馬鹿、雪が部屋に入っちゃうだろ」
「溶けちゃうから分かんないって〜…ヘッ」
「あのなぁ〜」
「…ヘヘヘヘックショオォォイ!!!!」
「…………………」
「…………………」
「………閉めような」
「…グスッ…………ハイ」

嗚呼馬鹿、やってしまった。
エレンの前で!
家でやるような!親父臭いくしゃみを…!!
チラリと彼を見るとまだ目線は外にあった。

「…今年は サラには世話になったな。」
「えっ?あ、うん」

そうか、今日は大晦日だ。くしゃみは見事にスルーされた。

「ありがとな!いつも助かってるんだ、 サラには。今度は俺が対人格闘教えてやるよ」

人懐っこく笑う彼から私は目を離せなかった。
馬鹿、嬉しくなること言わないでよ…


「エレン」
「なんだ?」
「対人格闘よりも、教えてほしいことがあるんだけどさ」

窓際にいるエレンへ距離をつめる。
微かにその金目が揺れた気がした。


「…エレンは、その、私のこと」
息が詰まってその先を問えない。
一息に言ってしまおうと深呼吸した途端、今度はエレンが近付いてきた。


「待てよ」


すると、蝋燭が尽きたのかランプの灯りがふっと消えた。部屋を照らすのは外の月明かりしかない。
彼はまた一歩、一歩と近付く。


「…サラ」
「あ、」

腕を引かれそのまま抱きとめる形となった。
エレンは自身の顔を サラの首筋にうずめ、はやる気持ちを抑え囁いた。

「俺が卒業模擬試験で10位内に入ったら、」
「…うん」
「…俺が言うから。それまで待っとけ」
「エレン、それって」
「しっ!…」

エレンは サラの口に指をあて、続きを制止た。

首筋に当てられた唇の感触がとてもリアルだ。
やがてそれは音を立てて離れ、二つの目線が交じり合う。
獲物を狩るような目だ。
私はそう思った。



遠くで消灯を知らせる笛の音が聞こえる。
今年は、色んなことがあった。
もうじき年をまたぐ鐘の音も聞こえるだろう。
雪は依然しんしんと降り注いでいる。



『好きだ』




彼の唇がそう、動いた気がした。

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