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□姐さん事件です!
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「尼子領きっての大事件っす!!」
まだ高い幼さを残した叫び声が出雲、白鹿城へとこだまする。そこにいたのは尼子十勇士(見習い)の山中鹿之介である。まだまだ半人前の彼だが、今朝は一番に主君である尼子晴久の元へ行き、兵法を指南して頂けるという約束を取り付けていたので大急ぎで来たのである。勿論、お目付役でもある鹿のおやっさんと共に。
騒がしい朝だな、と主君の部屋で鹿之助の大声に耳を塞ぐのは尼子晴久直属の忍頭、椿あいりである。昨日は久々の非番で晴久に静養を命ぜられていた事もあり、休んでいたためにこうして朝、お勤めを果たしに来たという訳である。
鹿之介とあいりは知った中である。まだ幼い鹿之介をしつけたり、主君の背中と同じく戦場で護る事もあいりの使命(というか命令)であった。その為、世話係として、あいりは鹿之介に小言の一つでも言ってやろうと人目に付く(鹿之介が気づく)場所へとわざわざ降りてきたのだ。
「鹿之介、何事?」
「あっ!あいり様!聞いてください!それはもう大事件なんす!」
あいりは少し呆れた。鹿之介がこういう時はろくな事ではないからだ。とりあえず話を聞いた後で静かにしろと注意の一つでも晴様にして頂こう、とあいりは思った。
「それで?どんな事件なのですか?」
「それが…!」
少し間を置く所は謎だ。とあいりは顔を顰めた。
「晴様が!!失踪してしまったんっす!!!!!!!!」
「…はぁ…?」
あいりはこいつは何を言っているのだという顔をして鹿之介を見る。本人は嘘をついているわけではない様だが、勘違いをしていないとは限らない。
「鹿之介…お前はどうして晴様が失踪したと思うのだ…?」
「そんなの決まってるっす!晴様がお部屋にいらっしゃらないのです!」
おやっさんは首を降って微妙な顔をしている。あいりは溜息をつくと晴久の部屋へ踏み入った。
「あっ!あいり様、その顔はうたがっているっすね!でも違うっす!晴様は、本当に…!」
「なら鹿之介、この文はなんなの?」
へ、と驚く鹿之介の顔の前に文を差し出すと鹿之介はそれを受け取って素直に読み始めた。
「なになに…砂が隠した俺の心が攫われて風になる前に、矛先の向いたあの丘へ…???」
鹿之介が?マークを頭に浮かべながら晴久の書いたと思われる文を読む。あいりには分かっていたが鹿之介はまだ文の意味を理解していないようでおやっさんに助けを求めている様子だった。あいりは仕方がないといった様子で鹿之介に文の意味を伝える。
「つまり、晴様はお気に入りの丘があったでしょう?あそこへ行ったのよ。」
鹿之介ははっ!とした顔で流石はあいり様っす!と言うと
「こうしてはいられないっす!おやっさん!晴様をお迎に行きましょう!」
と、おやっさんと共に晴様がいると思われる丘へと行ってしまった。
「やれやれ。」
世話の焼ける。そう呟くとあいりは微笑ましそうに音もなく消えた。

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