中編

□【番外編】天才ハッカーと刑事さん
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変わる日常




変な大人だと思っていた。

利害の一致とでもいうべきか、最初はただ情報を提供する側と、依頼する側という簡単な関係でいたはずなのに、いつの間にか奴は自分の触れて欲しくないギリギリのラインまで入り込んできていた。正直、自分の一番苦手なタイプだ。

奴はどんどん自分の日常の一部に食い込んで来る。時間があるときにふらりと現れては勝手に食事を作って帰っていった。今では依頼がない日にまで顔を出すようになっていた。その状況に慣れている自分が、とても怖い。

「なんだその顔は」
「‥‥別に」
「別にって顔じゃないぞそれは」
「あー‥‥説明するのめんどくせぇから察しろ」

今日だって、簡素なテーブルの対面側で腰掛けて猿飛アスマは自分の家にいる。自分とアスマの前に置かれた少し不恰好なオムライスは、当然自分のリクエストではない。アスマが普段使用されないキッチンを利用して作ったものだ。

「まぁいいや、ほらシカマル。食べようぜ」
「飯なんて1日2日食わんでも生きてけるってのに‥‥」
「そう言ってずっと携帯食品じゃいかんだろ」
「その台詞は聞き飽きたよ。耳にタコができそうだ」

渋々匙を手にとって食事をとる。ひと匙掬うと、少し半熟の卵がとろりと溶けて赤いチキンライスと共に食欲をそそらせた。一口、また一口と口へ運んでいく。その様子をアスマはクスリと微笑を浮かべながら満足げに眺めていた。

「うまいか?」
「‥‥大味」
「はは、そうかぁ。一人暮らしだと上手い下手がわからんな」

ガハハ、と大きく一笑いしてからアスマもまた自分の食事に手をつけた。今までになかった普通の料理、二人での食事。それが当たり前になっている自分の変化に気づかないシカマルではなかった。けれどそれが嫌と感じないくらいに、この2人の空間は暖かい。シカマルはアスマを受け入れていた。悔しい、しかしこれは紛れも無い事実だ。

「‥‥アスマ」
「ん?どうした?」
「鯖の味噌煮、作れるか」
「味噌煮?まぁ、作れないこともないが」
「‥‥‥そうか」
「なんだ、もしかしてリクエストか」
「うるせー別に作らなくてもいいし」
「よーしよしよし、お前がどうしてもっていうなら作ってやらないこともないぞー」
「そこまで言ってねえだろ、別に作らなくてもいいっての!」
「腕によりをかけて作ってやろう!」
「こらヘボ警官人の話を聞け!」

こんなどうでもいい会話を楽しいと感じるのは久方ぶりだ。面倒だとずっと否定し続けていた対人関係が楽しいだなんて、昔の自分が見たらどんな顔をするのだろうか。

「さて、もう俺は帰るとするかね」
「む、そうか。例の案件は次に来る時までにまとめといてやるよ」
「おー、頼んだぜ。流石天才ハッカー様」
「うるせー早く帰れ面倒くせえ」

食事を終え、アスマはやっと帰り支度をして玄関へと向かっていく。その背中を見送りながらヒラヒラと動物を撒くように手を振っていた。

「じゃあな、シカマル」
「おー」

アスマを見送った後、タバコを吸おうとふいにベランダに出てみた。これもまた、新しい変化だ。前までは日の光なんて当たろうともしなかったのに、今では太陽の下も悪くないかと思えてくる。
ベランダから、アスマの歩く様子が見えていた。大きな体を少し猫背気味にして、手をポケットに入れたまままるで熊の様に道を歩いている。

「あれがほんとに警察かよ」

クスリと、無意識に笑みがこぼれていた。タバコの先についた灰が零れ落ちるぐらいの時を、そのまま過ごしてやっとシカマルは部屋に入る。さて、と大きく背伸びをしてまた暗い部屋の中パソコンの前へと腰掛けた。次にアスマがこの家に来るまでに仕上げておかねばならない資料がたんとある。早々に片しておかねば。

「‥‥こんなにあるのかよ、めんどくせえなぁ」

そう呟くシカマルの口元は、やや嬉しげに笑っていた。



つづかない。





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松野様こんなに素敵な作品ありがとございます!私には書けないほど素晴らしいシカマルくんがいます( •̤ᴗ•̤ )
私も頑張ってこの作品を書き上げていきたいと思いす!


2015.01.27 しろ

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