地球の言語じゃ表せない

□1/真っ先に伝えましょう
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放課後、部活やら帰宅やらで生徒が掃けた閑散とした下駄箱の前でうろうろ行ったり来たり、溜め息をついたり息を吸ったりと一人で忙しくしていた。

今日しかチャンスはない。

いつも自転車競技部が忙しくて朝も昼も学校が終わってからも呼び止めるなんて、彼の練習の邪魔になるから出来ないし、本当に今日だけ。

彼が日直で日誌を書くから少し部活が遅れると分かってる今日。

大丈夫、用件は早くて5秒あれば終わる。

そう考えて廊下をチラチラ気にしているとサンダルのペタペタというかわいらしい足音が聞こえてきた。

下駄箱の影からそっと覗き見ると廊下の向こうからやって来る、片手でスマホを眺めて眉間にシワを寄せる彼。

時間でも気にしてるのかな。

う、うわ緊張する…。

手に滲む汗ごとぎゅう、と強く握りしめてどうにか震えそうな手を押さえ込んだ。

あと少し、あと少しで彼が来る。

何て言うか考えてたはずなのに頭が真っ白になる。

どうしようと焦っていると彼はもう私の隣にいて、少し屈んで下駄箱から自分の靴を取り出すとソレを片手に私の横を通りすぎて玄関に向かった。

「あ、あの、」

思わず呼び止めてしまった。しかもどもった。

呼び止められた彼は不審そうに私を振り返ってじろりと眺める。

彼が何も言わないことから察するに私の次の言葉を待っているのだろうか。

私は意を決して彼の三白眼を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

「ぁ、ぁああの、荒北先輩…す、好きです…」

あーーーーーーーーーーー言ってしまった。

彼の目に見つめ返されるとうつむいてしまいそうになる。でもそれじゃあダメだ、伝わらない。

そう思って彼をじっと見つめていると言われた彼の眉間に深いシワが刻まれた。

「ナァニ?罰ゲームかなんかァ?つかお前ダレェ?」

「えっ、アッ、すみません私一年の千家 チカと言います。あとコレは罰ゲームなんかじゃ、」

「誰に言われて来たか知らねェけど失礼じゃナァイ?すげーメーワク」

「あの、だから、」

「もうすんなヨ」

人の話を聞かない卑屈な考えの彼の制服の袖を思わず掴んで引き留めてしまった。そりゃあそうだ。

「まだ何か用あんのォ?」

「先輩が好きなんです」

「ハァ?」

「罰ゲームなんかじゃないです。つーか今時罰ゲームで告白なんてしませんよ今の時代は自販機のジュース奢るとか購買のお菓子奢るとか金かかるんです」

「………ソォ」

「好きです荒北先輩」

「………………」

まだ疑ったような目で私を見る彼を真っ直ぐ見返してやはりはっきり告げた。

「荒北先輩好きです。大好きです。愛してます。いや、どれだけの言葉を尽くしても私がどれ程荒北先輩を愛してるかなんて到底言葉に表せません。でもまぁ分かりやすく言えば荒北先輩のためなら自分の臓器の一つや二つ簡単に売れます」

「…………………………………………………………………………う、ウン」

「あの、それで荒北先輩、好きです。だから、」

それから私は一呼吸おいて彼を呼び止めた目的の言葉を伝えるために息を吸った。

それから緊張で声が震えそうになるのを抑えて。

「好きです。大好きです。必ず幸せにします。なので、私と友達になってください!!」

よし。言えた。言った。満足な私をこれでもかと目を見開いて、荒北先輩の眉間にはいつの間にかシワが消えていた。そして彼は歯茎を見せて素っ頓狂な声をあげた。

「ハァア?」

「えっ、私の一世一代の告白が聞こえませんでしたか?じゃあもう一回言いますね。荒北先輩………好きです。大好きです。必ず幸せにします。なので、私と友達になってください!!」

「……………」

次は白目を剥かれた。アレ、おっかしいな…。

「あの、恥ずかしいんで何度も言わせないでくださいよ…だから私荒北先輩が大好きなので友達になりたくて」

「あのさァ千家チャン」

「はい」

「好きって…どういう意味?」

「どういうって…もちろん荒北先輩を抱きたいって意味で好きですけど…」

「ハ!?なっ、なに言って、」

「そりゃあできるなら今すぐ荒北先輩を全裸に剥いて足開かせてアンアン喘がせたいですけど」

「エッッ!?!?ちょっと待ってゴメン今なんつった!?!?!?」

「だから、荒北先輩を全裸に剥いて足開かせ」

「ゴメン!!!やっぱ言わなくていいから!!!じゃあネ!!!」

くるりと踵を返して立ち去ろうとする先輩の細い手首を掴んで私はもう一度言った。

「なのであのっ、私と友達になってください!!」

「だァからなんでそうなんだよ!!好きっつーんなら普通付き合ってって言うだろォが!!」

「付き合ってと言ったら荒北先輩は付き合ってくれるんですか!?私は荒北先輩がいきなり見ず知らずの人間に付き合ってと言われるのは嫌がると思って友達から始めさせていただこうと思って言ったんですけど」

「いや、見ず知らずの人間に全裸に剥いて足開かせてアンアン喘がせたいですけどとか言われるより全然嫌じゃないヨ…」

「では荒北先輩、私と付き合ってください。…………そうすれば和姦になりますしね……」

「最後に変な言葉が聞こえたんだケドォ……」

「とりあえず一週間お試しで付き合ってみません?お願いします」

「……………………………一週間だけだヨ」

「マジか。やった有り難うございます!!!!!じゃあさっそく今から始めましょう!!手始めに荒北先輩が部活終わるまで待ってますから!!」

「帰れよ!!!終わるの遅いからマジでェ!!!」

「……一分でも一秒でも長く、先輩といたいんです…ダメですか…?」

「…………………………しょーがねェなぁ……大人しく待ってろヨ」

「はい!行ってらっしゃい!」

「………ン」

思ったよりチョロかったな…カワイイカワイイ荒北先輩。

彼を抱く日はそう遠くない。

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