地球の言語じゃ表せない

□2/私は本気ですよ
1ページ/1ページ

「荒北先輩ー部活お疲れさまです」

サイクルジャージから着替えたのか制服で部室から出てきたついさっき彼氏になったばかりの荒北先輩に駆け寄ると彼は驚いたような顔をした。

「オメーマジで待ってたのかよ…」

「彼女にオメーとは何事ですか。私の名前はチカです。次お前とかオメーとか呼んだらぶち犯しますから」

ムッとして脅しのように告げると荒北先輩は途端に怯えた顔になる。カワイイ。

「下駄箱のくだりからずっと思ってたんだけどソレ普通男のセリフじゃナァイ……?」

「さぁ私には世間一般的な基準や普通なんて分かりかねますがね。あ、先輩寮住みですよね、送ります」

そして私はビアンキを押す荒北先輩の横に並んで歩き出した。

いいなぁ。

「私、荒北先輩のビアンキになりたいです」

「ハッ…ァ…?何だよ急にィ…」

どもった荒北先輩の目を見つめて私は溜め息をつく。

「だって毎日乗ってもらえるじゃないですか。ビアンキはいいね、毎日荒北先輩に騎乗してもらえるんだから」

「オイ言い方!!!!!騎乗とか言うな!!!」

「私だって荒北先輩に騎乗位で腰振ってほしいのに…いいよね、快楽に溺れて赤い顔で涙目でメチャクチャに腰振って喘ぐ荒北先輩とか最高にカワイイじゃないですか…」

「ナァ…付き合ったばっかで悪ィけど別れヨォ?」

「嫌です!!私まだ荒北先輩を幸せにしてません!!!」

「幸せどころかさっきから精神レイプされてる気分だけどネ…」

「絶対幸せにします。性的な意味で」

「ネェそうやってすぐ下ネタに持ってくのやめてくんナァイ!?!?」

「夜は天国を見せてあげます」

「…………つーかチカチャンは俺のどこがよくてそんなこと言うワケェ?」

物好きもいるもんだネ。荒北先輩はそう言ってふて腐れたようにプイッとそっぽを向いてしまう。

やばいちょっと本音言い過ぎたかな。

私はちょこんと控え目に荒北先輩の制服の裾を引く。

「私、荒北先輩の不器用で真っ直ぐなところが好きなんです」

すると弾かれたように顔をあげてこちらを見る荒北先輩。

私は彼に視線を合わせて目を細めて笑って見せた。

「荒北先輩がロード始めたのも高校に入ってからなんですよね。それなのにこの強豪ハコガクチャリ部でレギュラー獲るなんて、相当努力したんでしょう?それこそ他の人の3倍ペダル回すとか」

きゅ、と荒北先輩のハンドルを握る手に力が込められる。

「私は疲れるのが嫌なので努力はなるべく遠慮したい人間なんです。だから、真っ直ぐ頑張れるあなたが羨ましくて、私にはとても純粋で輝いて見えてすごく綺麗で…」

それから一息おいて言葉を続けた。

「純粋で綺麗なあなたをグッチャグチャの汗と涙と体液と精液まみれになるまで犯したいと思ったんです」

「ストップ!!!!ハァイストーーーーーーップ!!!今いい感じだった!!!今すごくいい感じだったのに!!!!」

「あ、今度ウチ来ません?私の家族がいない日にでも」

「今の聞いてハイ行きますって答える人間なんていないからネェ!?!?本当顔はかわいいのにとことんぶち壊すネェ…」

「えっ?私ってかわいいですか?」

言われた言葉に驚いてパッと彼を見ると一瞬呆けた顔をしたあと段々顔を赤くして。

「か、顔はネ……だから最初罰ゲームか何かだと思ったわけだしィ…」

「………あはは。荒北先輩がこの顔を気に入ってくれたなら、私はこの顔に生まれて良かった」

赤い顔で視線をうろうろさせる荒北先輩の頬に手を滑らせて、少し眉を下げて笑う。

「荒北先輩はすごく努力家で真っ直ぐで、かっこよくてかわいくて、とても綺麗だから私なんかじゃ釣り合わないけど、分かってるけど好きだから告白したんです」

「………それはさすがに眼科行った方がいいヨォ……オレ、ブスってよく言われるしィ…」

「あ?誰に言われたんですかぶっ殺してやる。荒北先輩は世界で一番かわいくてかっこよくて繊細で綺麗な生きる芸術だからな」

「その目怖いからやめて!?!?あと殺すのもやめて!!!最後とか聞いてて恥ずかしいからァ!!!!」

照れてあーだとかうーだとか唸る荒北先輩がかわいくてその真っ黒でさらさらな髪を手櫛ですく。

「ね、荒北先輩。急に私の全部を好きになれなんて言いません。少しずつでいいです。私は心の底から荒北先輩が好きだから抱きたいとか時々本音が出ちゃうかも知れませんが、できれば私はあなたに愛されたい」

「…………………………」

荒北先輩はぽかんと綺麗な瞳で私を見返して。

うっ…。

「…………ごめん荒北先輩。実は私、あなたが野球をやってて、故障してそれからロード始めたのも全部知ってる。あなたを好きになったのは病院でなんだ」

まだぎりぎりストーカーじゃないけど実は全部知ってましたーという罪悪感に負けて言うと彼は目を丸くする。

野球に関わることだから言うつもりなんてなかったけど、あんな真っ直ぐな目で見られたら罪悪感で死んでしまう。ダメだ、洗いざらい吐こう。

「病院?」

「はい。何年か前、病院で泣いてましたよね。今までのオレの努力は無駄だったのかって。私その時入院してて偶然見てたんです。私も全然今よりもっと子供でしたがあなたが泣く姿を見て守りたいと思ったんです。だからあなたを追い掛けてこの学校に入りました」

どこか遠くを見るような目で私を見る彼は、きっとその時のことを思い出しているんだろう。

「年下の私が生意気だとは思います。荒北先輩ももうそんなに弱くないのも知ってます。でも、私はあなたを守りたい。好きです。ずっと前から愛してます。この学校に来て、あなたが元気にロードをやってて本当に良かった」

その時、ふわりと春風が吹き付けて私と荒北先輩の髪を乱した。視界の中でキラキラと風に舞って光る彼の髪はとても綺麗でこの世のものとは思えなくて、思わず彼の細い手首を掴んでしまう。

繋ぎ止めないと消えてしまいそうで。

「荒北先輩。できれば一週間なんて言わないでずっと付き合ってほしいです。何年もあなたをひたすら想い続けてやっと今日話せて、それだけで幸せです。でもこんなに近くにあなたがいたらもっと欲しくなりました。…………ダメですか…?」

同情を押し売るように上目遣いで 彼を見上げる。すると数秒見つめあって観念したように荒北先輩は片手でビアンキのフレームを支えながらその場に座り込んでしまった。

「荒北先輩?」

同じようにしゃがんで彼の俯いた顔を覗き込むと真っ赤な顔がゆっくりあげられて次第に視線がカチ合う。

それから荒北先輩の薄くて白い唇が動いて。

「ダメじゃねェ……つーかその顔は反則ダロォ…」

そんな限界まで照れた彼がかわいくて真っ黒でさらさらな髪に指を差し込む。

それから後頭部まで手を滑らせてさらさらと何度か頭を撫でる。恥ずかしそうに顔を赤くして少し涙で潤んだ瞳をこちらに向ける彼に誘われるように自然と顔を傾けて、気付いたら私と荒北先輩の唇の間の空間が埋まっていた。

驚いたように目を見開く彼が間近に見えて、目を細めて視線で目を閉じるように訴える。

すると伝わったのか眉間にシワを寄せて目を閉じる彼はかわいくて、愛しくて。

何度も角度を変えて啄んでは少し離れて、その薄い下唇をふにふにと食んで、苦しそうに開けられた唇に自分の舌を捩じ込んだ。

逃げる舌を絡めとって、あぁ舌も唇と同じで薄いんだなぁなんて思いながらちゅう、と軽く吸う。

歯列をなぞって、上顎をべろりと舐めると細い肩が大きく跳ねて荒北先輩の鼻から色っぽい声が抜けた。

ガシャンっ

近くで自転車が倒れて、荒北先輩のビアンキに心の中で謝りながらそっと唇を離した。

「ビアンキ倒れちゃいましたね。すみません」

小刻みに震える彼の手を握って言うと荒北先輩は恐る恐るといったように目を開けて、それと同時に大粒の涙がぽろりと瞳から零れた。

「あ、ぅ……」

「ごめん…泣かせちゃいました?」

彼の手を握ってない方の手で瞳から次々と零れる涙を拭って聞くと彼はびくりと肩を揺らして地面を見つめる。

「き、キスするの初めてで、ビックリしただけだっ…!」



か わ い い 。



「私、荒北先輩の初めてをもらえたんですね…今とても幸せです」

彼の額に自分の額を合わせて至近距離で見つめるとおずおずと視線が合わさる。

「続きはまた今度、お互い時間があるとき、しましょうね」

そう告げて半勃ちになっている彼の股間をつい、と撫でる。

「ひっ…!!」

あーもう本当かわいい。

この場で押し倒したい衝動をどうにか抑えて、近付いたことでさっきのようなキスをされると警戒してぎゅっと閉じられた彼の瞼にキスを落とす。それから隣で倒れたままのビアンキを起こして拍子抜けした顔の彼の手を引いて立たせた。

「帰りましょうか、荒北先輩」

片手でビアンキを押しながらもう片手で荒北先輩の手を握る。

半勃ちの股間を鞄で隠しながら歩く荒北先輩がかわいくて、天使って本当にいるんだな、と冷静な頭で考えた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ