地球の言語じゃ表せない

□3/これもまた日常
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いつも通り登校すると、学校の正門の少し離れたところに真っ白のロードバイクとにらめっこをする見知った頭を発見した。

時間も全然余裕だし何してんだと気になって後ろから近付いて声をかけた。

「はよ。何してんの真波」

すると彼は青い髪を揺らして顔をあげて、嬉しそうに声をあげた。

「おはようチカ!ちょうど良かった!あのねー、」

話によるとリアディレイラーの調子が悪いみたい、らしい。

「変な音がするの〜直してよチカ〜」

「ごめん無理。学校に工具持ってきてないし」

「工具なら部室の隣の部屋にあるよ!」

「あ、そうなんだ。じゃあとりあえずヘックスレンチとプラスドライバーとプライヤー持ってきて」

「プラスドライバー以外分かんないやー」

「よし。私を工具のある部屋まで連れていってくれ」

そうして真波の綺麗にワックス掛けしてあるフレームの輝くルックを押して歩き出す。

本当にこいつはロード乗るだけ乗ってメンテナンスは私に丸投げするもんだから真波より私の方がロードに詳しいんじゃないかなってぐらいで女子としてどうかと思う。

正直機械に弱い方がかわいいと思うんだけどなぁ。

ここだよ〜と間延びした声で言われて開けられたドアの中にルックのフレームを担いでお邪魔しまーすと一応声をかけて入っていく。

「うぉ、工具すごい揃ってるね」

感心して見回してると真波がせかせかと自分基準で使えそうだと思った工具を私の回りに並べ出す。

「いつもごめんね」

オレに出来るのはここまでだと言いたげに工具を出すだけ出して壁際に置いてある水色のベンチにちょこんと座った。

「いいよ別に。いつものことだし」

私はさっそく目視で異音がすると言われたリアディレイラーとその周辺を確認する。

「落車とかした?」

「ううんー」

だよね、ディレイラーハンガーには異変ないし。

とりあえず調整も兼ねていじるかぁと思い直してカセットスプロケットをトップギアにする。調整前のチェーンとカセットスプロケットの洗浄、注油を手早く終えて工具箱を漁った。

トップアジャストボルトをしめるためにプラスドライバーを手に取った私を見つめながら真波は口を開いた。

「チカはすごいね。メカニックのプロみたい」

「誰かさんのせいでね。機械に強いお陰で真波の女子力が10だとすると私の女子力はマイナス100だよ。メーター振り切ったわ畜生」

「オレは助かってるよ」

「まぁ放っておけないし真波に弄らせると一瞬でルック、バラされそうだしね」

「さすがにそこまでひどくないよ」

真波はケラケラと朗らかに笑ってるけど私は知っている。真波がパンクの修理さえできないことを。それどころかチェーンの洗浄も注油も、果ては洗車もフレームのワックス掛けすら出来ないことも知っている。

工具なんて持たせたらバラされる。確実に。

ささっと慣れた手付きでケーブルまで張り直して、次はロー側の調整に入る。

「チカはロードいじるの楽しい?」

「楽しいよ。あ、でもだからってメカニック覚えようとしなくていいから。何かあったら私に言って。ルックバラされたくないし」

「まだソレ言う?」

いやあんた笑ってるけど私、本気で心配してるからね。

ロー側の調整は簡単に終わって、次はBテンションの調整。

昔から不思議ちゃんにカテゴリーされるような真波はニコニコへらへらしてこいつはいつまで経っても変わらず、むしろ日に日に不思議度が上がってる気がする。

ていうかそろそろ真波の女子力がカンストして私がつらい。

イベント事では私より張り切るし、クリスマスや誕生日は男の単独セレクトとは思えないほど素敵なプレゼントをくれる。

バレンタインも毎年手作り菓子をくれて、私はホワイトデーに既製品のお菓子をお返しするのだ。

そりゃあそうだあんなレベルの高い手作り菓子をもらって、手作りでお返しできる訳がない。

まぁ私は私が大好きな荒北先輩ただ一人に好かれれば女子力なんてなくてもいい。

最後にSISの調整に入って、カセットスプロケットをトップギアから2段目に変速してクランクを回す。

クランクを回しながらシフトダウンのレバーをちょいちょいと遊び半分で操作する。

するとチェーンが3段目のギア近くで音鳴りした。

よーし、いい感じ。

無事3段目に入ったのでアジャスターを時計回りにしめる。

「おーし出来た。ちょっと真波乗ってみ」

真っ白なフレームを引っ掴んで調整したばかりのチャリを真波に差し出す。

真波は嬉しそうに表情を弛めてピカピカのソレを受け取って外に飛び出す。

素早くロードに跨がるとぐん、とペダルを踏み込んで歓声をあげた。

「わーい!!チカありがと!直ってるよー!!じゃあオレは坂が呼んでるから、」

「行かせねぇよ」

私は走って真波に追い付くと後ろからシートピラーを掴んで走行を止めた。

そして愚図る真波を教室まで連れて行って、入学早々のくせに真波の授業態度と頭の出来から予測される単位がいかにやばいかと、一年に取らなければいけない最低単位を説明して、最後にテストも単位もやばいとロード乗れないぞと脅すと渋々といったように条件を出してきた。

つーかコイツ自分が条件出せる立場じゃないって分かってねぇな。

呆れながらも聞くだけ聞いてやろうと白目をすると真波はニコニコ元気よく言った。

「お昼ご飯一緒に食べよう!!」

「ごめん却下」

昼休みは荒北先輩と過ごすって決まってるから。

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