地球の言語じゃ表せない
□5/昼という名のangel time
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「お待たせしました、荒北先輩」
昼休み、いつもの中庭のベンチでポツンと座って黒猫と戯れているカワイイカワイイ恋人に後ろから声を掛けると彼はバッと振り返って気まずそうに私を見上げた。
「別にィ…待ってねェし」
荒北先輩は猫と遊んでるところを見られるのが恥ずかしいらしくてれてれと視線をさ迷わせる。
「この猫ちゃん、随分と荒北先輩になついてますね」
荒北先輩の隣に座って猫にちょいちょいと手招きすると、猫は荒北先輩の膝の上からひょいと下りて私の膝の上で丸まった。
「カワイイねー」
陽に当たって気持ち良さそうな猫の背中を撫でてると荒北先輩は拗ねた顔をして昼ご飯のメロンパンの袋をガサガサと開けて中身にかじりつく。
猫は相変わらず私の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうに私の手のひらにその小さな頭を擦り付けた。
「この猫ちゃん、名前ないんですか?」
今まで何度も遊んでるのに荒北先輩が猫の名前を読んでるとこに遭遇したことは一度もない。気になって不機嫌そうな恋人に聞くとやっぱり拗ねた顔で呟くように言う。
「ネコはネコだろォ…」
「えー?こんなになつかれてるのに名前つけてないんですか?うーん…じゃあ私が考えます」
「別につけなくてもいいダロ」
「黒猫だから……安直だけどクロとか…まぁ見た目の特徴だけでつけるとしたらそれぐらいしか…」
甘えたな黒猫……。
「あ」
「いいの思い付いたァ?」
「やすとも」
「ン゛っ!!!ン゛ン゛ン゛っ、ゴホッ」
荒北先輩が呻いた。それから噎せた。
「うわ、大丈夫ですか?」
彼の背中を擦りながら顔を覗き込むと涙目で真っ赤な顔で眉間にはシワが刻まれて、元々つり目の三白眼が大きく見開かれていた。
「だっ、急に名前呼ぶからァ、」
言い訳のように喋る彼がかわいくて背中を擦っていた手をさらさらな黒髪に持っていく。
「この猫ちゃん、性格が荒北先輩みたいだからつい。そんなに驚かれるとは思わなくて」
「……別にいいケドォ…」
「でもやめます」
「?」
疑問符が浮かぶ荒北先輩のの目を見つめてにこりと笑って見せる。
「だって荒北先輩の方がずっとかわいいですから」
そう言って彼の口の横に付いているメロンパンの食べかすをペロリと舐めとる。
「なに、す…ん…」
赤い顔をさらに赤くして困ったように眉を下げる荒北先輩がかわいくてかわいくてもうダメだ。
彼の後頭部を引き寄せてあーんと大きく口を開けて、噛み付くようにキスをした。
指先で彼の耳をくすぐって、時々耳を塞いでわざとくちゅくちゅ音をたてると荒北先輩の体は面白いほどびくびく反応してかわいい。
しつこいくらいにキスをしてゆっくり唇を離すと荒北先輩は涙の溜まった目で私を見つめていて、かわいくて愛しくて触れるだけのキスを繰り返しすると、堪えきれなくなったのかぶわわ、と堰を切ったように涙が零れ落ちてきた。
「また泣かせちゃいましたね…」
ごめんなさいと笑って言うと荒北先輩はぐしぐし涙を拭きながらムッとした顔をする。
「……息ができないんだよ…バァカチャンがァ…」
悔しそうにそう言う彼は何て言うか一言で表すと食べてしまいたい。
「荒北先輩は本当にかわいいですね。世界で一番かわいい。この荒北先輩の脳みそも眼球も涙も精液も全部、残さず私のものだと思うと興奮します」
さらさらと荒北先輩の綺麗な髪を撫でながら告げると彼はうっ、と息を詰める。
「チカチャン、そう言うこと言うのやめろよなァ…」
「?何でですか?私がどれだけ荒北先輩を愛してるかなんて、こうやって思ったことを率直に伝えるのが一番だと思うんですけど」
首をかしげると彼は泣いて赤い目で私を見つめて小さな声で呟いた。
「は、恥ずかしいんだよ…」
………もしかして、
「荒北先輩、今まで彼女いたことないんですか?」
「………………………ウン」
沈黙の末の肯定。
この人、天使かな。
「じゃあ本当に、荒北先輩の初めては私が全部もらえるってことですね」
「…ナァニ笑ってンだよ」
「いえ、嬉しくて死んじゃいそうだなぁって思いまして」
えへへ、とはにかんで見せると荒北先輩は両手で真っ赤な顔を覆って隠した。
「荒北先輩、世界で一番好きですよ。愛してるなんて言葉じゃ足りないくらい好き。そんな大好きな荒北先輩と一緒にいられて、私はとても幸せです。泣いて喚いて土下座されても絶対手放してあげませんからね」
彼の耳ともで囁くように言うと恐る恐るあげられる赤い顔。
「かわいいかわいい私の荒北先輩。あなたの全部は私のものです」
洗脳のようにそう告げて、ふわりと笑って彼を見つめる。
荒北先輩は金魚のように薄い唇をぱくぱくさせて何か言いたそうにしていて、その動作がかわいくてまた、私は荒北先輩の唇に噛み付いた。