地球の言語じゃ表せない
□6/二度目まして
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とある休日。朝から真波に呼び出されて工具片手にアイツの愛車であるルックのメンテナンスを終えてさぁて帰宅しようとしたとき、今日はいい天気だから山へ行こう!と真波に強引に外へ連れ出された。
なぜ私は今、工具箱を持ったまま箱根の山を登っているのか。
隣にはにこにこと笑顔で坂を登っては私のとこまで下りてきてを繰り返す幼馴染みの真波。
お前もう一人で登った方がいいでしょ。何なの。
無邪気な小学生みたいな純粋そうな顔をしてコイツの中身は真っ黒だから末恐ろしい。
まぁ真波は私の前では可愛子ぶってるし私もなにも知らないふりしてるから…面倒だし。
「わーすごい見てチカバッタがいるよ!」
「本当だ」
「あ!蝶々!!」
「追い掛けて行かないでねー」
「リスだーかわいい!」
「真波に似てるね」
「タヌキもいるね〜あ、ヘビだ!ウサギも鹿も熊もいる!」
「ここの生態系大丈夫??」
とにかく動物が寄ってくる寄ってくる。すごいな。
私が歩く後ろには動物たちがついてきて、ハーメルンの笛吹ってこんな気分なのかな、なんて暢気に考えながら真波を追って坂を登る。
だいぶ登って、そろそろキレても私は何も悪くないよね、と思うと頃。
「チカ、もう少しで山頂だよ!!」
犬で言うなら尻尾を左右に激しく振りながら、真波は私に呼び掛ける。
あー、山頂ねー、登ってもまた下りなきゃいけないんだよねー。
工具箱を真波に投げ付けたい衝動をどうにか抑えてヤツを追う。
自販機があったらジュース奢らせよ。
そう思いながらついた山頂にはどこかで見たことがある顔と、その人の隣には黒のサーヴェロが一台。
すると真波はその人のところまで一気に加速して声を掛けた。
「新開さん、お待たせしましたー」
お待たせしました?
☆
真波に追い付くとその新開さんとやらは私と真波を交互に見てからヒュウ、と楽しそうに言う。
「お二人さん、デートかい?」
「はい!!あ、サーヴェロどうですか?」
「おい真波ざけんな何勝手にデートにしてんだ怒るよ」
ふざけた問いに元気よく返事をする真波を横目で見ながら訂正する。
私と真波がデートなんて29435680721年経ってもあり得ない。なぜなら私たちはただの幼馴染みだから。
すると新開さんは優しそうなたれ目の片方をパチッとウインクして私を見る。
「顔を合わせるのは二度目だね、オレは新開隼人。よろしくな、チカちゃん」
二度目ってマジか。覚えねぇわ…。
「こんにちはえっと、新開さん?よろしくお願いします」
まぁ今後会わないだろうし社交辞令ぐらいいいかな。隣のサーヴェロもこの人のだろうしロード乗ってるってことはどうせ真波の先輩かなんかでしょ。
なんでこの人が名乗ってもいない私の名前を知ってるかなんてことも私には分かる。十中八九真波が原因。
にこりと笑ってお辞儀をすると真波がサーヴェロの周りをうろうろして、それから私を振り返った。
「やっぱオレにはサッパリ分かんないや!!チカ頼んだ!」
「は?」