地球の言語じゃ表せない
□8/平均より+4p(笑)
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何度目かも分からない。
私は今、ハコガクチャリ部部室のドアの前に立っていた。
コンコンっ
手の甲でドアを軽く叩くと中から男にしては少し高めの声で返事がきた。
なので遠慮無くドアを開けると同時に口を開いた。
「度々すみません。真波いますか?」
すると中には汗だくでベンチに座るカチューシャをした人と、その人の太ももを枕代わりにして寝っ転がるこれまた汗だくの真波。
あーーー……。
「すみませんお邪魔ですよね」
今日は諦めよう。大人しくドアを閉めようとするといつの間にか私の目の前にいた真波がドアを掴んでとめる。
「ねぇ今なんで閉めようとしたの?怒らないから言ってみて」
「真波の“怒らない”は“今日課題やる”と同じぐらい信用ないから。あとごめんなんだか二人がいい雰囲気っぽくて早く立ち去らなきゃいけない気がした」
すると真波は案の定かわいらしく眉をつりあげる。
「なんでそうなるの!?オレはいつだってチカしか見えてないのに!!」
「前から思ってたけど真波はもっと私以外に目を向けた方がいいよ?ホラ、そこの人とか真波タイプっぽくない?」
「東堂さんはうるさいから嫌だ」
「おい真波!!うるさいとはなんだ!!」
真波に言われてカチューシャの人はベンチから立ち上がって真波の横に並ぶ。うるさいから嫌ってことは顔は好みなんだね?
っていうかあれ?
「えっと、東堂さん?は…三年ですか?」
真波がさん付けしてるのと、部室に二人だけなのはどうせ真波とこの東堂さんがクライマーで今日は山の練習だから早く帰ってきたのか、という勝手な推理を元に、野生児真波と同じもしくはそれより早く山を走れるのは三年の先輩だけだろうと考えて聞くと予想通り、彼はこくりと首を縦にふる。
へぇ、それにしても。
「東堂さんは真波より小さいんですねー」
かわいいなぁと思いながら言うとそれは東堂さんにはアウトだったらしく彼は顔を赤くして声を荒げた。
「し、失礼だなーーー!!!知ってるか!?男子高校生の平均身長は170pなんだ!オレはそれより4pも高いんだ!!」
「つまり真波は男子高校生の平均身長より6p高いってことか…」
「ちっがーう!!」
「隼人は7pも高いことになるな」
「あれ?チカいつの間に新開さんの身長把握してるの?ねえ、そんな仲良かったっけ?」
「最近急に仲良くなったんだよ」
「へぇー?」
「人の話を聞けーーー!!!!!」
東堂さんキレた。
私はニキビ一つないすべすべ真っ白な頬をかわいらしく膨らませて不機嫌さをアピールする東堂さんにずいっ、と近付く。
「東堂さんって真波より小さい上に細いですね。ご飯食べてます?」
キョトンと首をかしげて聞くと東堂さんは頭を抱える。
「東堂さんって軽そうですね」
ちょっとした好奇心で、すいっ、とかなり自然な流れで東堂さんを横抱きしてみる。
「うわぁ軽っ!!」
楽しくなって東堂さんを抱いたまま部室の外に出てその場でぐるぐる回る。
「わっ、ちょ、おぉお、下ろせっ!!ばっ、こわ…ひゃぁぁあ!!」
東堂さんは余程怖いらしく私の首に腕を回して思いっきり抱き付いてくる。かわいいかわいい。
そんなことをしている内に、チャリ部のレギュラー陣が次々と戻ってきた。
「あっ、みなさんこんにちはーお邪魔してます」
東堂さんを横抱きにしたままボトルを取りにクーラーボックスの周りに集まる福富さん、荒北先輩、隼人のところに駆け寄る。
すると荒北先輩と隼人が掴んでいたボトルを落とした。
「ちょぉぉお、チカチャン、オレのことは遊びだったのォ…?」
途端に泣きそうな顔をする荒北先輩。
「チカ…オレはまだ抱いてもらってないのに尽八はいいのかよ…?」
これまた悲しそうな顔をする隼人。
「隼人、その言い方だと誤解を生みそうなのでやめましょう。あとそんな泣きそうな顔しないでください荒北先輩。なんならあなたとの付き合いは遊びじゃないと証明するために小指でも切り落としましょうか?」
すると後ろから真波に抱き付かれて彼は私の頭に顎を乗せながら言う。
「えー?オレ、チカに傷なんてついてほしくないなー?」
「いや別に真波に言ったわけじゃないんだけど…」
「チカは将来オレと結婚するんだから体に傷なんかつけちゃ駄目だよ!」
「え?なにすごいね今世紀最高のボケを聞いたわ…それで私はなんて返事をすればいいの?ていうかどうせ女には全員に言ってるんでしょ」
「え?チカだけに決まってるじゃん!何て言えば伝わるかなー…あ、じゃあチカ、オレと子作りしよ?」
「は?かわいく言えばなに言っても許されると思うなよ??お前それが最後の台詞になっても知らないからな?あと私が作るのは荒北先輩との子供だけだから」
「チッ」
真波が舌打ちする横で真っ赤になった荒北先輩が両手で顔を押さえて蹲った。
そんな荒北先輩を見てあまりの可愛さにニコニコしていると私の腕の中で東堂さんがぴるぴる震えていることに気付いた。
「東堂さん?」
私の首に腕を回して首筋に顔を埋める東堂さんを覗き込むと彼はぎゅっと目を思いっきり瞑っていて、なんだかエサを取られまいと頬袋に詰め込んだあとのハムスターみたいな顔をしていた。我ながら説明下手すぎてダメだ…。
東堂さんの軽い体を抱え直すとやはりぴるぴる震えながら東堂さんは小さな声で言った。
「あ、足が地面についてないの…苦手なんだ……」
えっ、かわいい。
そんな東堂さんを見て私の周りにいた人みんな固まる。
数秒置いて真波がかわいらしい笑顔を浮かべて私に両手を差し出してきた。
「チカ、東堂さんをこっちにちょうだい?」
「へ?真波も東堂さん抱きたいの?」
「うん。その辺の生ゴミに棄ててくる」
「あぶねぇ。渡すとこだった」
危うく渡しかけた腕を引っ込めると次に隼人が人好きのする笑顔で。
「それにしてもいくら尽八が細いからって男なんだしさすがに重いだろ?」
「全然重くないですよ。多分隼人も抱っこできます」
けろりと答えた瞬間隼人の顔が嬉しそうに輝いた。
「抱っこ!!チカ抱っこしてくれ!!ぐるぐるも!」
「よし任せろ」
子供のような隼人がかわいくて、抱いていた東堂さんを外のベンチにゆっくり下ろす。
「東堂さん、ありがとうございました」
腰を屈めて目線を合わせてそう告げてから、カチューシャが装備されている男にしては長い髪をぽんぽん、と撫でる。
目を細めて怖くないよーとアピールするため優しく笑って見せると東堂さんはぽかんとした不思議そうな顔をして、それから俯いた。
「ま、また抱っこしてもいいぞ…」
「いいんですか?じゃあまた今度抱っこさせてくださいね」
そう言ってまた頭を撫でて隼人に駆け寄る。
「チカー!抱っこ!早く早く!」
「はーいはい。っと」
東堂さんのときみたいにすいっ、と掠めとるように隼人をお姫様抱っこすると隼人も私の首に抱きついてはしゃいだ。
「すごい!!結婚式みたいだな!」
「ん?結婚式?え?男女逆じゃない?」
私の疑問をスルーする隼人にぐるぐるをしてあげるとそれを見ていた福富さんがぽつりと言った。
「すごい力だな」
「そうですか?あ、でも私真波ぐらいでしたら片手あれば余裕で投げ飛ばせますよ!」
「え?チカはオレを投げ飛ばす予定でもあるの?」
「例えばだって…まぁあまりに言うこと聞かないなら投げ飛ばそうと思ってるけど…」
たくさんぐるぐるをして、ご満悦の隼人を下ろしながら真波に白目を向ける。
投げ飛ばすなら今か…?
そんなことを思っていると制服のブレザーの裾をちょんちょんと引かれた。
引かれた方の隣を見てみるとそこには不機嫌そうな荒北先輩。
「荒北先輩?」
キョトンと首を傾げながら名前を呼ぶと彼は少しムッとした顔でかわいらしく唇を尖らせる。
………さ、誘ってるのかな…?
それでも真意は掴めず、拗ねた彼のかわいい顔を眺めて次の言葉を待っていると、ゴニョゴニョと私の大好きな声が紡がれた。
「東堂と新開ばっかずりィ…オレはかっ、かれ、彼氏…なのに…」
ふい、とそっぽを向いて赤い顔で薄い唇を尖らせる彼はかわいすぎて妖精かな?
私は素早い動作で荒北先輩をお姫様抱っこする。
そして頬にちゅっ、と触れるだけのキスを一つして、驚く彼に笑いかける。
「そうですよね、せっかく近くにいるのに構ってあげられなくてごめんね、荒北先輩。もしかして嫉妬してくれましたか?」
至近距離で顔を覗き込んで言うと荒北先輩は面白いほど顔を赤くして混乱したような顔をする。
「嫉妬…!?ハッ…ぅ…お、オレ、嫉妬したの初めてかも…」
あーーーーーーーーーーーーー。
「あんまりかわいいこと言わないでよ荒北先輩…歯止め利かなくなる」
困った顔でそう言うも荒北先輩はあまり分かってない様子でへにょんと眉を下げて首をかしげる。
彼の一挙一動がかわいすぎて本当、心臓持たない。
「あのね、荒北先輩。そんなかわいいこと言われたらこの場で押し倒して足腰立たなくなって呂律も回らなくなるぐらいにぶち犯したくなる」
真剣な顔で言うと荒北先輩は不安そうな顔で私を見上げる。
真っ赤な顔で、涙目で、唇は薄く開いてて、眉は小さく下げられていて。
え?コレ誘ってるよね?
「荒北先輩、そのかわいー顔はなんですか?誘ってるんですか?私のこと、試してます?ヤってもいいなら今すぐ気持ちよくしてあげますよ?」
お姫様抱っこされて逃げられない荒北先輩の旋毛や額、瞼や頬にキスを落としながら言う。
キスする度にビクビクと反応する体がかわいくて、愛しくて思いっきり、でも優しく抱きしめた。
「荒北先輩、次のお休みいつですか?」
唐突に聞くと彼は恐る恐る閉じていた目を開いて不思議そうに私を見つめる。そんなかわいい荒北先輩にふわりと笑いかけて。
「デートしましょう。荒北先輩、行きたいところとかないですか?私の家でもいいですけどむしろ大歓迎ですけど」
思ったことを告げると荒北先輩は嬉しそうな顔をした。
「水族館とかァ…チカチャンの家は…な、ナニされるか分かんねェから…」
水 族 館 。
男子高校性が行きたいところが水族館。天使かな〜〜〜…。
「じゃあ後で空いてる日を教えてください。そしたら朝ご飯にイワシを食べて、水族館でイワシの大群とクラゲのイルミネーション見て、お昼ご飯はクラゲの刺身を食べて、夜は荒北先輩が何も出ない空っぽになって意識が飛ぶまでたくさんセックスしましょうね」
ざっと頭の中で立てたデートプランを口に出して楽しみですね、と笑えば彼は顔を赤くして珍しく素直に「ウン」と頷く。
荒北先輩マジで大天使。
名残惜しいけど私もやることがあるのでお姫様抱っこしていた荒北先輩を解放してから、そのさらさらの黒髪を撫でる。
「じゃあ、私そろそろ行きますね。部活中すみません。荒北先輩愛してますよ」
たまには、と思い彼の手をとって骨ばった、でも薄くて線の細い綺麗な手の甲にキスをする。
そしてチャリ部のみんなに振り返って笑う。
「では、お邪魔しました。あ、真波このプリント今週中までだから」
最後に鞄から出した本来の目的である留年がかかったプリントの束を真波の顔面に投げ付ける。
「みなさん頑張ってください」
ヒラヒラと手を振ってスタスタ歩く。
今日の荒北先輩もかわいかったな…。