図書館戦争
□1、図書館は資料収集の自由を有する。―1
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「あのクソ教官、絶っっっ対あたしを目の敵にしてるって!!」
正化31年関東図書基地の食堂にて。
新図書隊員の笠原郁一等図書士は
昼食の日替り定食のチキンソテーをフォークで突き刺しながら言った。
同じく新図書隊員で、郁の同室である柴崎麻子一等図書士は、呆れながら言う。
「…クソ教官って、滝川教官と堂上教官の事?」
「そぉよ」
郁は即答だった。
滝川明良二等図書正と堂上篤二等図書正は、
郁と柴崎の所属する教育部隊の教官である。
郁は、再び喚き出す。
「あたしだけ!あたしだけよ、こんなに腕立てくらってるの!他の女子にはこんな仕打ちしないくせに〜!!」
「相変わらず、教官達と衝突してるみたいだけど、今日は何?」
そう訊ねたのは別の教育部隊にいる伊江村織衣三等図書正。
階級は、郁や柴崎より2つ上だが、同い年で同じ新図書隊員である。
その為郁の代わりに柴崎が答えるが、
その口調は、同期ということでフラットであった。
「朝の訓練のハイポート、笠原、50人男子と混ざって12位だったんだけどさ。
勿論うちらの教育部隊の女子では、ぶっちぎりのトップね」
「流石、大学卒業まで陸上をやってただけあるな」
柴崎の言葉に織衣は感心した。
柴崎はそのまま話し続ける。
「走ってる途中、堂上教官に何度も名指しの罵声っぽい指摘されててさ、とどめは滝川教官にね。
笠原がゴールの後に倒れ込んだ所を滝川教官に目をつけられて、1人腕立ての刑」
織衣はその様子を想像して、小さく笑って言う。
「教官達も私らの入隊当初から変わらずの、公正じゃない厳しさだな。
ただ、ちょっとやそっとでヘコタレない笠原を見てると、それだけ期待してるのかもしれんな、教官達はさ」
「それ、あり得ないし!伊江村みたく、既に防衛部のエリート、図書特殊部隊の選抜候補にいる訳じゃないんだから!!」
郁はむくれながら言って、織衣はその言葉に少し驚いていた。
織衣は、図書隊入隊以前から知名度があるのを自覚していた為、
ある程度の情報が漏れるのは理解していたが、
特殊部隊の選抜まで噂になっているとは思わなかったらしい。
織衣は、郁のむくれ具合を下げる為慰めた。
「まあ、今は厳しいけど、笠原の長所が生かされたとき、教官達の認識は変わると思う。怒るのはその辺にしたら?」
郁は、表情は変わってないが素直に頷く。
少しは機嫌が良くなったようだ。
しかし、織衣の努力は虚しく、
柴崎の言葉で、郁の怒りはまた剥き出しになってしまった。