るろうに剣心

□現華火 〜待火〜
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「では、行ってくるぞ」


「あい、お気を付けて〜」




ちゅっ




「〜っ!!!で、では!」


バタン





「ふふっ。ほーじさんたら可愛いなぁ〜」






これが毎朝の風景。


方治さんは毎日きっちり同じ時間に起きて身支度をしてあの包帯のお兄さん、もとい志々雄兄さんのとこへ行く。



ーー包帯の兄さんって言い方は私もどうかと思うけど、姐さんの旦さんだから兄さんって呼べって言われたんだよねぇ・・・



あたしはそれから少しして起きて方治さんを見送る。

そのときにあのおまじないをする。

毎回毎回顔を真っ赤にするあの人が愛おしくてしょうがない。


改めて自分はなんて幸せ者なんだろうと実感する



























あの時、刀に胸を貫かれて目の前が真っ暗になった。

気が付いたとき、辺りは髑髏が埋め尽くす何もないところだった


すぐに自分は死んだんだって気づいてその場に座り込んだ


そしてずーっと何かを考えてた




地獄ってやっぱり暗いんだなぁ〜 とか


心のどこかで自分を売った親を恨んでたから地獄に落ちたのかとか遊女は極楽にいけないのかとか・・・





























ずーっと  考えてた


















最初に頭に浮かんだことを忘れるくらい考え事をしても

周りの景色は何一つ変わらない



来た時と同じ、叫び声と骨の踏まれる音が聞こえるだけ




















「っく・・・ひっく ・・・ふっ」











どうしようもない程の絶望と虚無感。


大きすぎる二つの感情に涙が止まらなかった







ーーなぜ、あたしだったの?

ーーどうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?


ーーもっともっとみんなと一緒に居たかった



ーー華焔姐さんの身請けの花魁道中だって見てないし

ーー流行りの甘味だって食べてない

























それに・・・










「方治さんのお世話だってまだおわってないよぉ〜・・・」








一日中、座敷の机に向かって 

眉間に皺を寄せながら ただひたすら筆を動かすあの後姿を見つめるのが大好きだった。



口では仕事の邪魔をするなと怒るけれど


いつだってあたしの話に返事をしてくれる。










ーーそしてこの苦界のことしか知らないあたしに 外の世界を教えてくれる




豆茶も 金平糖も、大きなおフネも





みんなみんな 貴方が教えてくれた

















「もし生まれ変われたら・・・また方治さんに会いたいなぁ・・・」














今度は、女郎なんかじゃなくて 普通の町娘にうまれたいなぁ



そうすれば




新造≠カゃなくて 自分の名前で呼んでもらえるかな
































きっと彼はこれから何十年という時を生きていく


その途中で 夫となり 父となるだろう


ろくに豆茶も入れられない新造のことなんて 

わすれてしまうかもしれない





















それでもいい



たとえあの人が忘れても あたしはおぼえてる




新しい魂に生まれ変わるまで







「それまでここで勝手に待ってるね」











上を見上げて呟いた声は


絶えず響く断末魔に掻き消された
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