小説本文

□いつもの時間
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 見られているな。
 不躾な視線にナミはむしろ悠然と足を組みなおした。誰の視線といえばローに間違いない。遠目からひっそりとではなく、食堂の机の向かいにどんっと座り真正面からの直視が注がれる。

 三白眼を怖いと感じなくなったのは慣れのせいだろうか。
 不機嫌でもないが陽気でもない。
 美女がおやつを食べる姿がそんなに珍しいのかしら、と瞬きする。

 皿盛りのスポンジケーキには白いクリームと果実のソースが美しく飾られている。

 ナミは好奇心を含んでフォークにケーキを一口分乗せるとすっとローに差し出してみた。ローはナミとケーキを一瞥すると無言でそれを食べた。流れるような動作で二口目が用意され、やはり黙々と口にする。

 餌付けってきっとこういう事をいうのね。
 小鳥ほど愛らしくなく、猛獣よりも危険な海賊のはずだがこれはこれで可愛いのかもしれない。そして三口目は最後に取っておいたベリーの実だ。素直に口を開ける姿に意地悪心が働いて眼前で手首を翻すとナミはぽんっと己でベリーを食べてしまった。

 「ごちそうさま」

 ナミは行儀よく唇を拭くと颯爽と皿を下げて食堂から出て行ってしまった。
 艶っぽい後姿を苦虫を噛み潰したような顔で睨んでいたローは深いため息と共に両手で前髪をぐしゃりと潰した。

 「いやー何度見ても面白いですね」
 「ローはおやつがたりないのか?」
 「初心なのよ。口説き文句が出てこないなんて奥手でいいじゃない」
 「まー自分から寄ってきて粉かけてくる酒場女とは勝手が違うからな」
 「ナミさんんからあーんしてもらえるなんてこの世の天国だぞ?!
  ナミさんからあーんだぞ?!」

 自ら酔狂の話題を提供している自覚が全くない不器用なローは、今日も進展がなかったことに静かに静かに落ち込んでいた。


 -終-

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