小説本文
□とさかの役得
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「セットしているのかと思ったら地毛だったのね」
ナミは感心したように言いながらバルトロメオのとさかの如く立ち上がった髪をぽふぽふと押しては手触りを楽しんでいる。
一方のバルトロメオは今にも心臓が口から飛び出しそうな状態だった。破裂寸前の心音とナミの声音が重なって何がなんだかわからない。
「へえ…生まれた時からこんなんで…」
「うちの連中はくせ毛ばっかりだから珍しいわ」
朗らかに笑うナミにバルトロメオは硬直する。至近距離で目にしてはいけないものが眼前にありすぎて固まるしかできない。晴れやかな笑顔、豊かな谷間、サンダルの先からちらりと見える整ったつま先まで刺激が強すぎる。
それでも髪に触れてくれる感触が心地よすぎて止めて欲しいとは言えない。
完全に彫像と化しているバルトロメオをナミは面白がっているようだったが、肉を齧りながらやってきたルフィが頬を膨らませて抗議する。
「そいつばっかりずりいぞナミ」
「はいはい」
ナミの手がルフィの頭をなでた。
海賊王になる人と麗しい航海士の歴史的瞬間を見た、とバルトロメオは本気で思い涙が溢れてきた。
尊すぎる。
この感動を何と表したら良いのか。
言葉にならないバルトロメオの口からは実際、嗚咽しか洩れていない。
ほら、ルフィが邪魔するからロメオ君泣いちゃったじゃない。
こいつはいつもこうだぞ?俺のせいじゃねえって。
ロメオ君は泣き虫だからどこにスイッチがあるかわからないんだもん。
泣き止まないバルトロメオをちらっと見たルフィは妙案を思いついた。
「なあ、ナミの髪はみかんの匂いがするんだぞ?」
「本当ですか?!」
驚いたバルトロメオの涙が止まった。
「ああ、すげえいい匂いだからお前も嗅いでみたら…」
ごんっ
派手な拳骨が落ちた。
「乙女の髪はデリケートなんだから勝手なこと言わないで」
崩れ落ちるルフィ越しに向けられる鋭い睨みにバルトロメオは大慌てで首を横に振る。己からナミに触れるなんて恐れ多くてできるわけがない。
それでよろしいと優雅に踵を返したナミに思わずバルトロメオは呟いた。
「ナミ先輩はめんこいなあ…」
笑っても怒っても見蕩れるしかできない。
バルトロメオは常日頃から思っていることを口にしただけだったので、まさかナミが立ち止まるとは思わなかった。そしてさらに猛然と近寄ってきてルフィと同じように拳骨を食らわされるとは予想できるはずがなかった。
「ばかっ…!」
ただの拳骨にバルトロメオは床に沈んだ。
だがついに口元が綻んでしまう。拳を振るった時のナミの耳が赤く染まっていている事を見逃さなかったからだ。
床に突っ伏したままにやにやしているバルトロメオにさすがのルフィも呆れた。
「お前も変わってるなあ…」
終