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□ 騎士たるもの 
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 黒い爪先が顎にめり込み脳天が弾かれた。
 錐揉みするならず者を一瞥したサンジは死角から振り下ろされた曲刀を反転して交わすと、驚愕する男の側頭部に蹴りを放つ。赤黒く焦げる足が旋回するたび、業火の残滓で景色が歪む。

 煙草一本吸い終わるより早く、そこには呻き声を上げて倒れる海賊達で溢れていた。

 「…ちょっとやりすぎたんじゃない?」

 樽の陰に隠れていたナミは嘆息した。
 サンジが雄叫びを上げながら接近してきた時点でナミはさっさと安全な場所へと避難してのだ。

 「ナミさんに乱暴しようとしたんだから当然です」

 力強く頷く顔は悪魔の形相から一変して早くも蕩けている。お怪我は、と聞きながら手を差し伸べてくる姿はまるで普通の紳士のようだ。ナミはその手を取って立ち上がる。

 「声をかけられただけだったんだけどね」
 「馴れ馴れしすぎました。しかも腰に手を回そうとしていた」
 「…よく見えたわね」

 港に停めたメリー号は遥か後方で、二人が居る場所からは薄っすらとマストが確認できる程度だ。

 「愛の力に不可能はないんです」

 サンジは上機嫌でナミの手を引いて歩き出す。

 この自称騎士は確かに頼もしいのだが、いかんせん非常に過保護でもある。ナミを守るという大義名分があれば視界に入る船を全て壊滅させるだろう。

 真っ赤な血で染まった足を優雅に折って跪き、ご無事ですかプリンセスと微笑を浮かべても可笑しくない。

 大変困った事に、ナミはそんなサンジが嫌いではない。
 物騒な考えが移ったのだと肩をすくめながら思い切り手を握り返す。

 「ここまで来たんなら荷物持ちをしてくれるんでしょ?」
 「もちろんです」

 洋服、本、インク、ナミは必要な物を頭の中でリストアップしながら最後にネクタイと付け加えて軽やかに歩き出した。

  終

 

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