小説本文

□祈憶
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 ナミ、ナミ。
 ローはいつも名を呼びたいが出てくるのは

 「…ナミ屋」

 名前からは少しずれた他の船員達と同じ愛称のような言葉が出てきてしまう。それでも聡明な女はローの表情や態度、口調から言いたい事を察してくれる。

 「どうしたの…ロー?」

 トラ男と呼ばれなくなると、声音がやわらかくなる気がする。それに甘えてばかりではいけないとわかっているが、感情の出し方が下手糞なローは口をへの字に曲げてその肩にもたれかかった。

 ナミは本を読んでいた手を止めローの頭をなでる。読書の邪魔をして悪かったと思い、ローが体を離すとナミは苦笑しながら本を閉じ血色の悪い頬を両手で包んでぐりぐりと引っ張ったり揉んだりする。

 「私はあんたの声が好きよ。何を言おうか考えすぎて結局何も言えなかったり、照れて突拍子もない事を零すのも面白いし」

 そうやってからかってときほぐしてくれる。ローにはどう頑張ってもできない心遣いだ。だからせめて不器用なりに出来ることをしたい。

 「ナミ、好きだ」
 「うん私も」
 「金にがめつくて臆病で飲ん兵衛で言い出したら聞かない時は本当に困る」
 「………」
 「仲間を大事にしている所がいい。自分の信念があってそれの為なら損得抜きになるのも凄い」
 「………」
 「航海術は他の航海士と違う。海に愛されている。苦労するがナミにしか見えない世界がある」
 「………」
 「俺にもその世界が見えたらいいなと時々思う」
 「………」
 「でも今一番叶って欲しいのはお前の声が聞けたらいいと願っている」
 「…ローは真顔で反応に困る事を言うから性質が悪いわ」
 「ナミに比べればましだ」

 ナミはローの膝の上にどんどん本を積み重ねていく。大切にしている本を崩したら大目玉だ。ましてや床に落としたら恐ろしい事態が待っていそうだ。
 ナミはローの動きを封じてから告白した。

 「あんたの心臓を私に頂戴。替わりに私の心臓をあげる」

 抱きつきたくても抱きつけないローは顔をくしゃくしゃにした。


  終

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