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□ニワトリの恋
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「嫌いなの?」


 見開いた目の中に驚きと困惑が浮かびバルトロメオは首をぶんぶんと横に振った。


 「滅相もねえです!」


 差し出された蜜柑を見つめるばかりで受け取らないのだからそう思われても仕方がないだろう。ナミの手から蜜柑を受け取ろうとするのだが、恭しくなるばかりその指に絶対に触れてはいけないと緊張に震えている。

 だからナミは渡すというよりも落とすようにバルトロメオの手に蜜柑を置いた。

 バルトロメオの厳つい顔が嬉しそうに崩れた。宝物を見る目だった。それだけだったら微笑ましいですんだのだが、眩しすぎて近寄れないと普段から公言するバルトロメオは反射的に後ずさっていた。


 それがナミには面白くない。

 蜜柑を奪い返して自分よりも遥かに大きい忠犬を睨みつける。


 「私のこと嫌いなの?」

 「嫌いじゃねえから困ってます!」


 ナミの剣幕と蜜柑に気をとられてうっかり本音を洩らしてしまったバルトロメオはしまったと両手で口を覆い逃げ出そうとした。

 しかしコートの裾をつかまれて失敗する。

 派手に転びおたおたしているうちに顎をつかまれ女神と敬う人と至近距離で向かい合うはめになった。


 「どうして困るの?嫌いじゃないんでしょ?」


 歌うように艶めく唇にバルトロメオは喉をごくりと鳴らす。簡単に払いのけられる細腕にされるがまま、ただ逃げ出したい気持ちだけで後ずさろうとしてまた失敗する。


 顎を持ち上げられ、唇が触れそうな距離でナミが微笑んでいる。

 呻き声一つ上げただけで当たってしまう。

 必死で口を噤むバルトロメオとは対照的にナミは婉然と口端を緩める。空気を漉して伝わる吐息に背筋が痺れる。


 「教えてバルトロメオ…嫌いじゃないなら、私はなに?」


 涙目になりながらバルトロメオは告白した。

 そしてご褒美の口づけに目を回して倒れてしまう。意識を取り戻した時に見えたのは空と蜜柑の木。夢だったのかと身を起こせば胸に置かれた蜜柑がころりと落ちる。


 いっそ夢であって欲しいとバルトロメオは空を仰いだ。


   終

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