小説本文

□まほうのことば
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 どんな森の奥でも。

 ミンク族達がおしゃべりをしていても。

 みかんの匂いを辿ればそこにはベポの探し人が居る。


 「ナミ!」


 ベポは振り返ったナミに抱きついて頬をすり寄せる。


 「ガルチュー!」


 それが挨拶と同じほどなじんだナミは両腕を伸ばして抱きつき返す。



 「ガルチュー」


 そのまま二人は頬を合わせたままにこにことお互いのやわらかさを楽しむ。真っ白な毛の埋もれる手ざわり、つるりとした肌の弾力、自分にはないものでここぞとばかりに堪能する。


 「ベポはどうして私の居る場所がわかるの?」

 「みかんの匂いがするかすぐわかるよ」


 ナミはベポをなでながらぎゅっと抱き締めてぬいぐるみのような耳元で内緒話を打ち明ける。


 「なんでみかんの匂いがすると思う?それはね…私の髪の毛からみかんができるかならの」


 つぶらな目がさらに丸くなる。


 「嘘?!」


 ベポは柑橘色の髪に鼻先を埋め大きな手で波打つ髪を探り出す。


 「なんにもないよ?!」

 「たまにしか出来ないからね」


 泥棒猫は髪がくしゃくしゃになるのも構わずいたずらっぽく笑う。

 この微笑ましい光景を微笑ましい目で見れなくなったペンギンとシャチがついに駆け出した。


 「俺も俺も!」

 「ガルチューしたい!」


 年頃の女の子、美人で胸が大きくて気が強いけれど優しい。夢に描いたような存在だ。潤いのない日々が続いた中でペンギンとシャチを責める事は難しい。

 半泣きで駆け寄ってくる姿は本当に必死でナミは可哀相に思って腕を開いた。ついでにつなぎのどこに財布を入れているのか目星をつけ、あと一歩というところで二人の姿が掻き消える。その変わり木の枝が二本、地面に転がった。

 ガルチューし損なったナミは残念そうにベポに抱きついた。


 「別に良かったのに」

 「財布を掏ろうっていう泥棒猫に大事なクルーを近づけられるか」


 たっぷりと苦虫を噛み潰した顔でローは大事だと言うわりにペンギンとシャチの襟首を雑に締め上げている。

 財布を掏られてもいいからガルチューしたい!ただの挨拶だからいいじゃないですか!じたばたもがきながら叫び続ける二人を無視してローは引きずって歩き出した。数歩進んでから顔だけ振り返る。


 「ベポに変なことを教えるな」

 「変ってなんのことかしら?」


 微笑むナミを睨んでからローは再び歩き出した。

 森の奥に消える後姿を眺めながらナミはたおやかな手で白い毛なみをなでる。にこにこしているのにどこか影が落ちた横顔にベポは慌てた。


 「キャプテンはナミが好きだからそっけなくしているだけだよ。ああ見えて恥ずかしがり屋なんだ!おれ達には優しいんだよ?」


 嫌いにならないで。そう繰り返される言葉にナミは驚いた。そしてゆっくりとベポを引き寄せ他の誰にも聞こえないよう小さく小さく内緒話をした。


 総出の見送りになったが一言くらい別れを告げるのは簡単だろうとローは思っていた。


 「ほら、だから言ったじゃないですか。キャプテンは大事なことを後回しにして失敗するタイプだって」

 「俺達がガルチューするのに紛れて一緒にやっちゃえば良かったのに」


 信頼できる仲間達は頼りになる分遠慮がない。

 仏頂面に見えて実は落ち込んでいるローの傷にさらに塩を塗りこんでいく。


 「キャプテンは恥ずかしがり屋だから仕方がないよ」


 ベポだけがローの味方だ。うなだれる背中を抱き締めてガルチューする。


 「だからナミが好きだよって俺から伝えておいたから安心して!」


 空気が固まった。

 誰もがぽかんとしてベポを見上げ揃って声を上げた。


 『なんて言ってた?!』


 陽気な白熊はあのね、と開きかけた口を慌てて押さえてから逃げ出した。


 「内緒だからだめ!」


 内緒だがナミの分までベポがローにガルチューをしているとすぐに知れ渡ることになった。



 終

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