小説本文

□ゆるやかな黒
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 暗い目をしている。夜の海のような眼差しだとナミはローを見て思った。だからこそその目が向けられた時、不安と見慣れたものを前にした馴染み深さが混ざり反応が遅れた。


 「俺の所に来いよ、ナミ屋」


 ホットワインを差し出したまま動きを止めたナミにローはもう一度言う。座ったまま睨み上げ、言い間違えたわけではないと伝えたいのか一語ずつはっきりと口にする。


 パンクハザードで戦い続け、予想外の宴に巻き込まれ、冬島の冷たさが残る甲板でシーザーを監視するローは誰よりも疲れて見えた。

 ルフィを含めた一味の破天荒ぶりに参っているのだと気がついたナミが差し入れをしようと思ったのはほんの少し同情したからだ。そして同盟を組んだ結果、さらに酷い渦中に巻き込まれてしまった事にちくりと嫌味を言ってやろうとしていた。


 「それどういう意味で言っているのか聞いてもいい?」

 「うちの船に来いと言っているつもりだが」


 ローはホットワインを受け取り口にする。

 湯気越しに視線がぶつかる。

 遠回りせずはっきり答えを口にする輩は嫌いではない。だが、だからと言って返事が色よくなるわけではない。

ナミは呆れた顔で見下ろした。


 「それで私がうんと言うと思っているのなら大物ね」

 「はっきり言っておいた方がいい話だろ」


 抑揚のない声音のせいでどこまで本気かわからないが、明らかにその気がないナミを目の当たりにしてもローは平然とホットワインを味わっている。伊達に七武海に名を連ねているわけではない。

 不敵、と言っていい自信はどこからくるのか。

 根拠のない自信と行動力はルフィの得意分野だと思っていたがここにも居たのかと、ナミは言う事を聞かない駄々っ子を前にした時の顔になった。

 

 「せいぜい頑張ってね。私はここから動く気はないから」


 ローは表情を変えず空になったカップを突き出した。それを受け取ろうとしたナミは手首を掴まれ、たいして力を入れているようにも見えないその手に引き寄せられる。

 底なしに暗い海を間近で覗き込んでしまい不安で震える。

 掴まれた手首に唇があてられ血管をなぞるように食まれ体の内側が震える。

 ローはナミを見据えたままそれを繰り返す。

 ホットワインのせいで熱を持った唇は容赦なくナミにも熱を分け与える。


 「そうだな…動く必要はない」


 暗がりに飲み込まれそうな静けさのままローは妖しく口角を歪ませた。


 「海賊なんだから奪えばいい」



 終

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