小説本文

□金の欠片
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 ナミがあまりにも見違えたのでローは足を止めてしげしげと眺めた。

 淡い金色の粒が幾重も連なって柑橘色の髪や白い肌を彩っている。二の腕は玉の輝きを受けて照るように艶を増し、澄んだ花の色をしたドレスから垣間見える脇腹や腿は隠されているからこそ触れたくなる。その誘惑的な姿にローの後ろではクルー達が素直に歓声を上げていた。不躾な視線に恥らうわけもなく、ナミはすっと背を伸ばして自らを誇る。


 「どう、似合うでしょ?」


 なびく髪に合わせて流れる玉に気を取られながらローは頷いた。


 「ああ」


 そして余計な一言をつけ加える。


 「あんたでも服を着るんだな」


 ビキニにショートパンツ、生地の薄いタンクトップと服と呼ぶには頼りない布面積ばかりを身に着けている記憶しかローにはなかったので素直に驚いている。

 的外れな言葉にナミは肩を竦めたが、見惚れるほど華やかな笑顔を浮かべて両手を差し出した。


 「見物料ちょうだい?」


 金銭絡みでローはナミに勝てないとすごした時間は短くとも骨の髄まで知らされているので素直に財布を出し、数枚の紙幣をその手に乗せた。

 紙幣を数えて胸の谷間に収めるまでは守銭奴の顔。ローの腕を取りミンク族達を紹介すると言った時にはとびきり甘やかな面立ちになっている。

 よくそれだけ表情が変わるものだと感心しているローは目つきが鋭いせいか終始不機嫌そうにしか見えない。仏頂面が素なのだ。

 先にゾウに辿り着いていたハートの海賊団からすれば自分達を助けてくれたナミは同じ海賊でも随分高嶺の花になっていたのだろう。キャプテンずるい!と嘆きの声が上がるのと同時にいっせいにポケットから財布を取り出して我先に駆け出してお互いを押し合って転げ回っている。

 クルー達の前でやるべき行動ではなかったと、ローはその原因を睨んだ。しかし全く気にした様子はなく、もみくちゃになっているクルー達の人数を確認し頭の中で算盤を弾いているナミに溜息をつくしかなかった。


 「折角自分の一味に会えたのに嬉しそうじゃないのね」


 ナミはまた表情を変え悪戯っぽく見上げてくる。こうなる事を予想していたのだろう、相変わらず金に目ざとく誰のせいだと思っているんだと言いかけてローは飲み込んだ。金が絡まなくともナミに口では勝てないとわかりきっている。


 「私は嬉しいわ」


 ナミは苦い顔をしているローの腕を掴み、軽やかに首に縋りつくと音もなく頬に口づけた。

 一瞬、時が止まる。

 辺りが目を奪われる中でナミだけがドレスを翻し優雅に歩き出している。指の間に財布を摘みひらひらと振りながら機嫌よく先を行く。

 掏られた。

 ローが憤激するよりも、ハートの海賊団が船中の宝を持ってこようと騒ぎ出すほうが早かった。

 さすがにローも一喝して止めさせたが、このままでは泥棒猫にハートの海賊団は毟り取られてしまいそうだ。

だがなんと言って諌めれば良いのだろうか。

 頬がまだじわりと熱く思考を乱す。

 唇が離れた時、小さな声で「おかえりなさい」と囁かれ今だ耳にこびりついている。

 どこまでが演技でどこから本気なのかわからない。


 金があってもなくても歯向かえないとローが気がつくのはまだ少し先だった。


 終

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