小説本文

□赤い嫉妬
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 ナミは爪先立ちで本を取ろうとした。

 背表紙に指がかかって手に落ちかけた時、阻まれた。刺青の刻まれた手が上から覆い被さり本を元の場所へ押し戻す。そのまま五指を拘束するように指に絡んで本棚に縫いつける。後ろから抱きつかれ腹部に回ってきた手を撫でながらナミは嗜める。


 「どうしたの?私と話したくないんでしょ?」


 甘く優しい声に誘われて服の中に滑り込んできた不埒な手をナミは抓って阻止する。

 ローはよほど口を利きたくないらしい。

 痛みに不平を洩らさず、嫌味にも怯まず、体の自由を奪うだけ奪ってから衝動をぶつけてくる。

 腹から離れた手が腿を這う。膝に近い所から撫で上げるとかさついた掌が熱を持ちしっとりと馴染む。内側のやわらかい部分を執拗に愛でるとナミのびくりと跳ねた。

 長い髪を掻き分けてローはうなじに噛みつく。

 淡く歯を立て、ナミの抗議を無視して息が乱れるまで繰り返してから吸い上げるとはっきりと痕が残る。


 「ちょっと止めて…髪が縛れなくなるじゃない」


 ローは無言を貫いた。言葉を発しない鬱憤晴らしの如く赤い痕を散らせ続け、時折、噛みつく。ゆるやかな痺れを伴う痛みは心地良くナミの体の中に熱を灯らせていく。

 仰け反った背を抱き締めローはスカートの中に手を侵入させようとした。


 「そんなにルフィと一緒に居たのが気に入らないの?」


 ローの動きが止まる。

 ここぞという時にナミは気勢を削いでくる。

 危うく本気で噛みついてしまいそうになったので首から顔を上げローは低い声で唸った。

 大事な人は皆、自分の手からすり抜けて二度と戻ってこない。ナミもいつ居なくなるかわからない。出来るなら籠の中で飼っておきたい位だが、この自由を愛する猫はローの戒めから逃れて好き勝手に歩き出してしまう。

 ナミはぎゅっと縋りついてくるローを後ろ手で撫でる。

 冷然として執着心なんて持ち合わせていなさそうな振りをして誰よりも嫉妬深いローをなだめる事はナミの密かな楽しみだ。

 ナミはローの胸にもたれかかる。


 「痕、好きなだけつけていいわ…見えない所につけてよね」


 驚いた気配が熱を孕んで伝わる。どんな顔をしているのか見えずそれだけがナミには残念だった。


 終

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