小説本文

□王子様は月を抱く5(ニジナミ)
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「ニジが十二時になったら迎えに来るって言っているわ」


 部屋に戻るなりレイジュは手に負えないといった風にナミに伝えた。


 なんで、嫌だ、行きたくない、そうレイジュにごねてもどうしようもないとわかっているが動揺のあまり落としてしまった本を拾いながらナミは唇を噛んで俯いた。


 『好きな子に意地悪するのも限度があるでしょ?ナミは痛いのは嫌だって言っていたわ』


 日付が変わったら迎えに行くと言い出したニジと押し問答している時にレイジュがこう零すと顔を赤くしてさらに怒り出してしまった。こうなっては望みを叶えるまで沈めようがないと知っているレイジュは失言を悔いていた。

 美容の為に早寝していると言ったら逆にもの凄く食いつかれてしまい困惑もしている。寝ていてもいいから連れて行くと言い張るニジにレイジュもついに匙を投げた。


 「まるでシンデレラみたいね」

 「…そんな可愛い話じゃないわ」


 慰めにならないと知っていながらレイジュはナミの頭を撫でた。




 ニジはナミをベッドに押し倒しながらこめかみに青筋を浮かべた。


 ナミは全身を火照らせ息を乱している。内腿まで濡らしそこは熱を求めてひくついているがニジはまだ何もしていない。


 十二時きっかりにレイジュの部屋に飛び込むと言い争っていた時とは打って変わり晴れやかな笑顔で迎えられた。


 「本当困った子ね」


 レイジュは姉らしい眼差しでニジにナミを託した。


 「でも大丈夫よ、私が準備しておいたから」


 たっぷりの皮肉を真綿で包み込んだふりをして透かして見せている。貴方にはナミをこんな風にできないでしょ、と婉然とレイジュは胸を張る。

 ニジが訪れる直前まで弄ばれていたのだろう、ナミの体は熱く蕩けるほど敏感だった。足腰も立たずニジに抱えられ、体を支える腕にも感じているのかびくびくと体を震わせている。両手で口を覆っていても漏れ聞こえる吐息に体の奥が熱くなる。レイジュを押しのけ奥の寝室に飛び込んでナミを貪りたい衝動が、聡い姉によって作り出されたものだと思うとニジの腹は煮えくり返り罵声の一つも浴びせたい所だった。


 だが腕の中にはナミが居る。

 レイジュとナミを見比べニジは荒々しく扉を蹴って出て行った。


 ナミは今夜まだ一度も達していない。

 焦らされ、高められ、乱されておかしくなりそうだった。何度懇願してもレイジュは首を横に振る。


 「こんな貴女を見たらニジだって無茶はしないはずよ。抵抗したら酷くされるから…体に素直になればいいの」


 楽にしてくれるならニジでも良いと爛れそうになる思考にナミはあらがう。その首に縋って誘いをかけないよう必死で口を押さえて身を縮めていたが、抱えられてくらりとする。


 男の匂いに体が疼く。

 固く滾った杭が欲しいとうねる膣にナミは慄く。

 ニジを見てはいけない。

 自分に酷いことをしたと忘れて求めてしまいそうになるのでナミは押し倒されてからも目を瞑って顔を背けていた。


 それがニジには新鮮で恥らっているように見えた。

 服は着たまま行為に及んだ方がいいと言うイチジに対してニジは全裸でやる方が好みだ。

 何も纏わず素肌を晒しているおかげで、視線に感じて秘所から新たな蜜がつたったのも良く見えた。ニジが足の間に体をねじ込んでいるせいでナミは膝を閉じられないでいる。


 ここまでお膳立てされておきながらニジはまだナミに手を出せない。レイジュの手の平で転がされ、それがただただ気に食わないという理由だがニジにとっても充分すぎる理由だった。

 自分の手でナミを屈服させる事に意味がある。レイジュの横槍が面白くない。しかしこのままでは体が持たない。視覚的な痴態に理性は限界に来ている。それはナミも同じらしく爪先がシーツを書いて欲情に堪えている。


 ニジは良いことを閃いて口角を歪ませた。

 限界まで張り詰めている先端をひくつく秘所に当てぐちゃりと往復させた。


 「ひっ」


 ナミの体が跳ねる。

 暴れる膝を押さえニジは上体を傾ける。蜜と先走りが交じり合い肉が擦れあう刺激にナミは弓なりにしなり、口を覆っていた手は頭の横に押さえつけられ喘ぎが部屋を満たした。


 「やだっあ、やぁっ」

 「ナミっ見ろっ」


 強制的に与えられる快感に酔い、命令に顔を上げて下肢を見れば猛ってそそり立つ楔が体液にまみれて擦りつけられている。てらてらとした塊が動くたびに愉悦が湧き上がり体中が燻されるように辛い。


 ようやくとろりと物欲しげに潤みだした瞳にニジは満足した。


 「欲しいか?」


 あくまでナミが欲しているから自分は仕方なくつきあってやった。ナミがどうしてもというから、そんな言い訳を脳内で繰り返す。


 それがニジの矜持ならばナミにも曲げられない矜持がある。朦朧とする頭のなかでかちんっと怒りが爆ぜた。


 覆い被さってくる体を押しのけ腰を引いて密着から逃れると、見た目だけは文句なしに整っているニジの内面を抉るつもりでナミは嘲笑う。


 「あんたにお願いするくらいなら一晩中水風呂に入ってた方がましだわ。跪いてどうしてもって言うなら考えてあげるけど」


 手の平が頬を打ち払う音が響いた。


 「そうやって暴力でしか訴えられないなんて可哀相な人ね」


 二度三度乾いた打擲が続く。

 ニジは爆発した怒りをそのままに乱暴にナミを貫き腰を打ちつけた。容赦のない抽挿に内心を裏切って体は素直に反応する。


 ヨンジの優しさもなければレイジュの巧みさもない、ある意味ニジらしい自分勝手さを受け入れてしまっている恨めしさにナミは堪える。

 声は抑えられないと諦めた。固く目を瞑って顔を背け枕を握り絞めているとニジは分身を根元まで押し込めてきた。浮き上がる腰を掴み最奥を先端でがつがつ擦りながら不機嫌極まりない声で揺さぶる。


 「おい、俺を見ろ」


 意外な声の近さに驚きナミは目を開ける。


 「なんだその目は」


 ニジの言葉にはいちいち険がある。言い換えそうにも下肢から伝わる愉悦にまともな声が出てこない。体は喜んでいるが視線が訴えてくるあきらかな拒絶にニジの苛立ちは増す。


 ナミは初めて組み敷いた時からこうだった。

 一番最初にナミを抱ける優越感からその反応も見た目通りの気の強さだと昂揚さえした。媚薬を使って女を楽しんできた事は数え切れないが、火照って濡れた体を見てあそこまで興奮した経験はない。

 蜜月の一週間はあっという間に終わった。

 そして一番という優越感も消えた。

 イチジは沢山の服を用意させナミを着飾らせたらしい。

 ヨンジは看病なんてふざけた真似をしてナミの新たな顔を知ったようだ。

 レイジュは妹のように可愛がって茶やおしゃべりを楽しんでいるという。


 どれもニジの知らないナミと過ごしている。

 なぜ自分の前では楽しそうにしないのかと八つ当たりしてしまう。


 秘所の中で存在感を増す熱の塊にナミは仰け反った。激しく穿たれぎりぎりまで引き抜かれては最奥まで貫かれ嫌でも感じてしまう。達して敏感になった体ではその快楽を受け止めきれずについに意識を飛ばしてしまった。


 ニジは朦朧とするナミをそれでも抱いた。

 生理的にびくつく背中に腕を回して抱き締めると奥に放ちながらその顔を覗き込む。

 眉根を寄せて意識を失う顔はいまだ欲情の余韻で艶を失っていないが、ヨンジが良いと言っていた寝顔と何かが違う気がする。しかしニジにはその違いがわからない。不満気に息を吐き再び熱を取り戻してきた下肢を収めようとニジはナミの体を引いた。
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