小説本文

□魔法がとける前に
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「ずるいと言えたらいい」の微妙に続きっぽく。前作読んでいなくても大丈夫です。


 キスをしたら魔法がとける。

 古今東西おとぎ話の鉄板だ。

 魔法使いちゃんって呼んでね、と、自ら揶揄するナミは科学を信じている。だが魔法の存在を否定するつもりもない。グランドラインはびっくり箱だ。科学では説明できない現象に溢れているのだからどこかに本物の魔法もあるかもしれない。


 雨粒が窓を叩き空気は水を含んで重くなる。

 室内はより暗くなり薄墨を刷いた中では目よりも耳が役に立つ。

 荒い息遣いが時折擦れる。

 前戯もほとんどなく繋がったくせにそこは喜んでローを受け入れた。

 ローに跨りナミははやる気持ちを抑えて腰を降ろす。反り立った分身に内部をいっぱいにされてそれだけで達してしまいそうになる。ブラジャーを上にずらして剥き出しになった膨らみは硝子のような目に凝視されただけで先端を色づかせている。下は何も身に着けず、性急さを現して床に投げ捨てられていた。

 爛々と瞬く眼差しがゆっくりとナミの体を這う。

 視線に弄られる。

 触れもせずにローはナミを愛撫する。

 堪らず仰け反る肢体に満足そうに口角が上がった。その表情に感じてナミは達してしまう。全身を震わせて楔を絞り、その形を覚えておこうと膣を収縮して精を吐き出させる。どくどくと飛沫が中に注がれナミは抑えていた息をようやく吐き硬度を失っていく様子ですら名残惜しくて無意識に下腹部を撫でる。

 ぼうっとしていたナミの顎をローは掬う。

 近づいてくる顔にナミは咄嗟に背いた。

 キスをしたら魔法がとけてしまう。今までの出来事は全て夢で、自分は測量机に突っ伏してうたた寝をしているに違いないと慄いているうちに離れる気配がしてほっとした。

 それはほんの一瞬だった。

 ナミはローに手を取られソファに押し倒される。そのままあっさりと手の平に唇が押し当てられる。

 柑橘色の髪をぶわりと逆立たせて驚愕する反応が面白かったのかローは薄く笑ったまま舌を這わせて手首に口づける。

 その微かな刺激に仰け反り、ナミは目眩がした。吐息は熱くすぐさま手を振り払いたいがそれが出来なくて肩が震える。

 ローの透徹とした眼差しはその姿を眺めて愉快そうにし、次はどんな反応をするのだろうと皮膚の柔らかい部分を音を立てて吸った。


「まほうが……とけちゃう」


 甘く泣き出しそうな声でナミは囁く。

 色香と鋭さを併せ持つ視線に晒されて体の火照りは収まらない。

 ローはナミの唇を同じもので奪う。


「とっくにとけている。知らなかったのか」


 ナミがうたた寝をする姿を見かける度にこっそりと口づけていたローは今度こそ激しくそれを求めた。



 終

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