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□きままなモーニングコール
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 少し早かった。
 目が覚めてしまったナミはカーテンの端から差し込む弱い光を受けてまどろむ。早い位で丁度いいのかもしれない。寝起きの悪いヨンジを起こすのはいつも手間がかかる。
 寄り添って眠るヨンジは満ち足りた顔で寝息を立てている。寝つきが良く深い夢の世界に入るとちょっとやそっとの事では目を覚まさない。毎朝朝食の席に間に合わせようと侍女達が困った様子で扉を叩いてくるうちにナミの方が慣れてしまった。
 体がだるく向き直るのも億劫だったが、寝顔が見たい一心でナミは体を捻る。整った鼻梁に乱れた緑色の髪がかかり、ナミにしか見せないだろう隙に胸が疼く。
 ヨンジはナミを求める。
 優しく、時に獰猛に、真っ直ぐに手を伸ばす。初めて知った愛し愛される喜びを隠さずに伝えてくる。それは言葉であり性行為そのものでもあった。
 下肢からせり上がる疼痛にナミは慌てる。背を這う痺れがいくら心地良くとも、散々愛された体は倦怠感に包まれぐったりと重い。

「ヨンジ、起きて」

 思いがけず擦れた声音に当然返事はない。
 喘ぎすぎたせいだとわかっているナミは赤面しながらぶ厚い胸板をぺちぺちと叩く。ヨンジが喜ぶからいけないのだ。名前を呼ぶとわかりやすく頬を染めるからつい過剰に鳴いて煽ってしまうのだと、一人で言い訳を作る。
 こそばゆいのかヨンジは寝返りを打つと腕を伸ばしてナミを抱き寄せた。
 高い体温が朝の冷たさをぬくもりに変えて素肌を包む。高まるに熱にナミは焦った。
 腹部に、当たっている。
 ヨンジの分身が臍の下に密着してくすぐってくる。
 健康な生理現象で何もしなければ治まるとわかっているのに、唾を飲み込み手を伸ばしてしまう。根元からゆっくりと撫で上げると手の中で塊が脈打って昂ぶってくる。
 あれだけ貫かれ最後には泣きを入れたというのにもう欲しくて堪らない。体の芯が疼いてもどかしい。
 だがナミは欲望に流される寸前で我に返り手を離した。
 
「朝よ起きて」

 擦れた声でもこれだけ近くで囁けば聞こえるだろうとナミは繰り返す。
 ヨンジの大きな体が揺れた。
 起きたのかと思えばそのまま布団の中に潜り込んでいく。ナミを抱き締めうとうとと胸の間に顔を沈め、擦れたさえずりに合わせてまどろみながら肌を吸う。鎖骨からふくらみかける乳房の手前まで小さな痕が散っていく。子供が指をしゃぶる姿に似ているかもしれない。そうしていると落ち着くから、ついやってしまう。
 とくんっと母性が揺さぶられる。
 ナミは縋りついてくるヨンジの頭をなるべく優しく撫でる。あやされて落ち着いたのだろうか吸いつく間隔がゆっくりになっていく。とろんと胸の中にもたれてくる無防備さが可愛らしくてぎゅっと抱き締めるとつむじに唇を落とす。

「お姫様のキスで目が覚める王子様のお話なんてあったかしら?」

 優しく撫でていた手で少々乱暴に髪を崩しているうちにようやく瞼が動いた。

「…ナミ…?」

 まだ半分眠っている目でヨンジは顔を上げぼんやりとナミの頬に手を伸ばす。

 「…風邪引いたのか?大丈夫か?」

 体温が高いと思っていたヨンジよりも遥かに熱く火照っていたナミは羞恥でさらに赤くなる。
 起きた早々の言葉がこれかと胸が疼く。
 いとしくていとしくて堪らない。
 ナミはヨンジの掌に頬ずりをする。

「たまには私から襲ってもいいわよね」

 朝食までの時間がたちまち埋まった。

 

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