小説本文

□三度目の正直に重なる嘘
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 前戯もせずに無理に繋がればすべりが悪く酷く動き辛かった。貫かれているナミの方が堪ったものではないと、その顔を見ればよくわかる。薬によって薄く火照っていた肌には汗が浮かび、痛みと怒り、反抗心で目元が歪んでいる。

 イチジが膝裏を掴んで腰を進めると悲鳴を噛み殺して全てを拒絶するようにナミは目を固く閉じた。何も見たくないと両腕で自身の顔を巻き込んで隠してしまう。

 イチジは気を悪くする様子もなくナミを見下ろした。
 シルクのレースをたっぷりとあしらった薔薇色のベビードールが肌蹴て臍から下が剥き出しになっている。申し訳程度にリボンが飾られた下着をずらして分身を埋めている状態は何にも変えがたく気分がいい。震える腿を撫で同色のガーターベルトのレースに見惚れてから腰を打ちつける。

 毎夜体を求められ快楽に浸された花が咲く。
 どんな仕打ちからも感じるように慣らされ乾いていた内部が潤みだす。そんな自分を恥じてナミはますます頑なになる。

 膝裏を押され肩の近くまで持ち上げられるとほとんど腰が浮いた体勢になり上から串刺ししているようだった。好き勝手に奥深くまで抉られ、イチジが最初の精を放つと膣を満たす体液に合わせて猛りが静まる。声を出さないようにきつく噛み締められていた唇がほっと息を吐く。噛み締めて色を失っていた唇に血が戻り唾液で濡れた舌が覗く様が扇情的でイチジは口端を緩めた。強ばる腕を掴み頭の横で押さえつけてから頑なに背かれたまま唇を重ねる。

 それは触れるだけで終わった。
 ぴたりと閉じたままの唇をこじ開けない代わりに舌先でなぞると思わぬ戯れに驚いたのか肢体が跳ねる。

「っ」

 声なき声で喉が反る。
 無防備に晒された喉を咥えると堪えている荒い呼吸が良くわかった。噛み千切りたい程の愛しさに下肢が滾りイチジは再びナミの体を求める。

 感じ始めた下腹部は甘い蜜を吐き出して杭を受け止める。刺激を求めてひくつく襞に応えれば激しい腰の動きにナミは髪を振り乱した。苦しいのか気持ちがいいのか眉が寄せられている表情ですらイチジは興奮する。淡く染まる肌に汗が浮かびベビードールのやわらかな生地が張りついていやらしく煽ってくる。

「ナミ」

 不意に耳元で囁かれナミは慄く。
 思わず瞼を上げればイチジと至近距離で視線が絡まり、その傲慢で艶のある声音に下肢が疼きだし止められない。
 具合の良くなった締めつけに貴公子は微笑む。

「どこか感じるのか教えてくれないか」

 体重をかけて続く抽挿はもう痛みではなく快感に変わってナミを苛む。先端が奥を擦り短い間隔で打ちつけられると抗えない何かが押し寄せてきて仰け反り爪先が宙を蹴った。蕩けた隘路を限界までいっぱいにされる繋がりについに堪えていた声が漏れてしまう。
 泣き出しそうに儚い小さな喘ぎをイチジは聞き逃さない。
 腰を打ちつける間隔をより速く深くする。

「っん、ん」

 切れ切れにナミは声を零す。
 イチジが肌をぶつけるたびにその声音は切実さを増していく。

 ナミ自身そんな声を上げるのが嫌なのだろう、指を噛んでいるとその手が引き剥がされる。歯形のついた関節を丁寧に舐められ体の奥からぞくりとした疼きが沸いて止められない。
 感じきったナミに見せつける為に指に口づけイチジは大きく抽挿する。音をたてて根元まで埋め蜜を纏いながら入り口まで引き再び沈める。その繰り返しに次第に声が漏れ甘さを帯びたそれは達した事でついに高くなった。
 昂ぶった熱が冷めないままにイチジは繋がりをゆったりと変え、その動きに合わせてナミの体が震えた。

「っ…んっあ」

 くしゃくしゃに乱れる薔薇色のレースが肌に映えて綺麗だとイチジは表情を変えないまま見惚れる。薄い生地越しに胸の先端に嚙みつくと、痛みではなく心地良さにナミは声を上げて弓なりにしなった。唾液で生地が張りつき感じやすく尖る蕾がいやらしく浮き立つ。指先で戯れていると秘所が収縮して喜びを伝える。

「いい…きもちいい…」
「お前だけが満足してもな…ここで止めると言ったらどうする?」
「やだ…っ」

 わざとイチジが冷たく言って体を離そうとするとナミは縋りついて止める。足が腰に巻きつき分身を絞った。猛る物を不規則に締めつけて奥に導く。

 何度か体を重ねないと従順にならないナミに対してイチジは煩わしさよりも、ようやく掌に収まった満足感を感じていた。
 とろりとした声でねだり自ら縋る。
 媚薬はとうの昔にただの栄養剤に変わっていた。薬だと思い込んで乱れいやらしく腰を振る猫を抱き締める。
いつ告げよう。
 今か。それとも明日か。
 イチジが顔を近づけるとナミは自然と目を閉じて唇を受け入れる。触れあう舌の心地良さに優越感が込み上げる。溢れる感情に他の名があると知らず、イチジはナミを抱き締めた。

 終

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