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□新緑の季節は全てが碧く
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コンコン。

「はい。」

「アルバートです。」

「はい! どうそ。」


はしゃいだ声。
益々訳が解らない。

静かにドアを開ける。
にこやかな笑顔。

彼女だけでは無い。
ウィスタリアの面々。

それに…ゼノ様。
つい今先程までご一緒していたのに。


「???」

「お誕生日おめでとうございます!
アルバート!」


彼女の弾んだ声で言われた途端、皆から
声を掛けられ、拍手が渦巻く。

俺はその中心で何が何だかも判らず
立ち往生。


「…プリンセスが貴方の誕生日を
お知りになり、日頃お世話になっている
からと…この度は休暇を利用して貴方の
お誕生日を祝う為に来たのですよ。
ゼノ様のご協力と、ついでに私は来月の
国で行われる祭典の打合せも有り同行を
させて頂きましたが。」


ジル=クリストフが何でも無い様な顔で
言う。だがその瞳の奥に面白がっている
色が見える気がするのは…俺の気のせい
なのか?


「ね?…疚しい事じゃなかったろ?
残念だったね、アル。」


ユーリがあの大きな目をくるりと動かし
俺を牽制して来る。…お前はこの事を
事前に知って居ながらのあの発言だった
のだな?! …本当に性格の悪い奴だ。

ゼノ様が笑いを潜めている。


「…おめでとう、アル。」

「……ありがとうございます。ゼノ様、
せめてゼノ様からは一言先にお聞かせ
願いたかったですね。」

「プリンセスから口止めをされていた
からな。…だが良いサプライズになった
だろう?」


大きく溜息。
するとプリンセスが不安そうに俺の顔を
覗き込む。


「…あの、アルバート…ごめんなさい。
驚かせたくて。きっとアルバートは私が
お祝いをしたいって言うと遠慮しちゃう
って思ったから…。でも、いつも私が
シュタインに来ると色々とお世話をして
くれるでしょ? だから、日頃の感謝の
意味を込めてお祝いしたかったの。でも
私だけじゃ…アルバートの好きな物が
判らなかったから、ゼノ様にも一緒に
選んで頂いて…。万年筆なの!とっても
素敵な。見てみて?」


そう言って包みを渡される。
小さなあの文房具店の。

――あれは俺へのプレゼントだったのか

彼女が嬉しそうにゼノ様に礼を言ってた
のが目に浮かんだ。大事そうにこの袋を
抱え込む様子も。

温か気持ちでその袋の中の箱を開ければ
そこには使い易そうなシンプルでいて
上質な万年筆。


大事に両手に持つ。


「…ありがとうございます。
大事に使います。」

「良かった!…あのね、あと、ケーキも
焼いて来たの。今朝。お口に合うといい
んだけど…。」


彼女が除けた先には…テーブルに乗った
ケーキ。今朝はかなり早くから準備した
のではないだろうか…。そう思わずには
居られない程、大きなホールケーキで。


「ハッピーバースディ!アルバート!」


そう言って笑うサラディナの笑顔は、
部屋灯りよりもキラキラと眩しかった。


彼女の笑顔が光を弾き
夜中だというのに
あの新緑の光を透かした緑の様で

彼女の声が
まるで植物の呼吸の様に
全てを清らかにしている様で


俺はシパシパと瞬きを繰り返す。

目を開けても彼女の笑顔。
周りの連中も笑っている。


幸せな誕生日だった。
自分自身でも忘れていたけど。


子供の時以来な。
ゼノ様と目配せをする。
2人して子供の頃に戻った様だった。


ゼノ様の乳母であった母が焼いてくれた
あの素朴なケーキの様に
愛情溢れたケーキを片手に



なんて幸せな

こんな幸せが大人になってもあるなんて











Happy Birthday ALBERT!
2015.05.17 xxx
















〜 ちょっとだけ、その後。


「ゼノ様…俺は貴方とウィスタリアとの
婚姻は承諾しかねるかもしれません…」

程良く回ったアルコールの為か、珍しく
アルがそう俺に零した。

サラディナ一行に誕生日を祝われ、
シュタイン名産の赤ワインをユーリに
煽られるままに杯を重ねたアルと部屋に
戻った際、俺の部屋で明日の確認をした
アルが出て行き様ポツリとそう言った。

俺に聞かせるつもりは無かったのか、
本当にポツリと漏らす様に。

そのまま静かに閉じられた扉に俺も苦笑
しながらマントを脱ぎ。

「俺も…例えお前に反対されても、
望むかもしれないな。今日の様な笑顔を
見せられれば…」

…聞かせるつもりの無い言葉を
漏らしたのだった。



end.

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