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□春色の日
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【 春色の日 】


何だか気のせいじゃなくて…朝から
サラディナ様がよそよそしい。

朝の目覚めの紅茶をサーブした時も
あのクリクリとした可愛い目を合わせて
くれないし、それどころか挙動不審。


――俺、何かしたっけ?


サラディナ様にあんな風になられる事

大事な大事なサラディナ様。
…俺の本当のお役目も忘れてしまいそう
になるくらいに。

あの方以外で俺が忠誠を誓いたいと
思ったのは彼女だけ。守りたいと。
…騎士の誓いだなんて、執事の俺に
出来るはずもないんだけど。


――まさか、バレた…?

バレる訳にはいかないこの気持ちと
俺の正体。

執事だなんて立場でなく、男として
サラディナ様が好きだって事と、実は
ずっと彼女に仕えては居られない立場
なんだって事。

だから言えない。
だから言わない。


そう決めたのに、ずっと苦しい心の内。

サラディナ様が笑う、可愛い笑顔で。
その度に攫ってしまいたくなる。

いつかはこの国の王となるべき男のもの
となる彼女。この先の未来に彼女の横に
立つのは俺では無い。
あの細腰に手を回し、あの花弁みたいな
唇にキスを落とし。そう出来る男は
この国の次期国王だけ。

俺以外にも彼女に好意を持っている男が
たくさん居るのは知っている。

国王の座を狙う馬鹿貴族どもはともかく
次期国王候補と名高いルイ様も彼女の
前じゃあの氷の人形と言われる整った
顔を微笑みに変え、女タラシで名を
馳せてるレオ様だってサラディナ様の
前だと驚くくらい紳士に振る舞う。
そういうの全く興味が無いって顔してる
アラン様も何だかんだ言って彼女を
遠乗りとかに誘い出しては楽しそうに
してるし、ロベールさんはどうやら昔
サラディナ様の家庭教師をしてたとか
って言ってイキナリ彼女の相談役なんて
買って出て。

…俺と同じく、彼女を手にする事が
出来ない…許されないお立場のジル様
だって、本心を言えばサラディナ様に
惹かれてる。
一見、そんな風に見えないけど、俺には
判る。だって、俺は執事でいつだって
サラディナ様の近くに控えているから
彼女に向けられる視線には敏感。

あの、滅多に城に現れない皮肉屋で
情報屋のシドでさえ、城に来た時、用も
無いのに彼女に会って帰っていくんだ。

そんなサラディナ様にお仕えして、
彼女の側で彼女を見てて。
一番近くで彼女に触れてて惹かれない
筈がない。

イヤリングを付けてあげる時、髪を
掻き上げると仄かに染まる頬。
ネックレスを付けるのに首元に触れると
擽ったがって、首を竦める仕種。
その華奢な肩、細い首。
彼女の為のドレスによって開いた胸元
からは淡い香水。

次期国王候補を決める命により、仕方が
無いにしても、あんな男にアピールする
ようなデザインのドレスなんて脱がせて
しまいたい。

品良く、豪華に飾り付けられてるから
気付き難いけど、彼女のドレスはどれも
男受けのいい物ばかり。
あの華奢な作りの体を強調し、柔らかな
隆起を際立たせ、そんなんだからあの
馬鹿貴族共まで寄って来るんだ。

こないだだって、ちょっと目を離した
隙に囲まれ、腕を取られて腰を抱かれて
戸惑ってた。

急いでアラン様と救出したけど、彼女の
手は緊張で小さく震えてて。
そんな初心な彼女に次期国王となる男を
選ぶ大命を抱えたプリンセスにさせる
なんて。


俺が攫ってしまいたい。

そう思ってるのがバレてしまった?




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