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□春色の日
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「ダメだなぁ…私。ユーリって真っ直ぐ
目を見るからバレちゃいそうなんだもん
…でも、あの態度は拙かったよね…」


ショボンと俯き、ユーリが着けてくれた
髪飾りを触る。

器用なユーリ。今日も綺麗に私の髪を
編み込んでくれて。パーティの時は
流石に髪結い専門の使用人の方がするん
だけど、あまり人に囲まれると緊張して
しまう私の為に、普段はユーリが私の
身繕いをしてくれてる。着替えは女性の
メイドさんが手伝ってくれるんだけど、
髪結いや、その日の公務に合わせた
ドレスやアクセサリー選びは主にジルと
ユーリがしてくれてて。公式行事は主に
ジル、普段は殆どがユーリで。
今日もユーリが選んで髪の毛もそれに
合わせて編み込んでくれて。

実は以前、メイドさんから聞いた。
ユーリが、私の為に髪結いさんの所に
編み込み方とか習いに行ってるって。

『サラディナ様はたくさんの人たちに
側に仕えられるとすごく緊張して気疲れ
されてしまうみたいで。でもそれだと
公務の前に気力を削がれてしまうから、
慣れるまではなるべく俺と少数のメイド
だけでサラディナ様の身の回りの事は
しようと思っているんです。』

って言ってたって。

細かな所まで気を配ってくれるユーリ。
男の人なのにその気遣いは細やかで。
私が楽なようにといつも気を遣ってくれ
て居て。私は感謝しても仕切れない。

公務から疲れて帰ると、直ぐにお茶を
淹れてくれててリラックスさせてる間に
身の回りの物を片してくれる。
それ所か次の予定の準備まで。

私はそんなユーリにいつもして貰って
ばかりで。

最初は可愛らしい見た目のユーリに、
弟が居たらこんな感じかなぁ、って
思ってたんだけど、最近ではもう私の
奥さんみたいに甲斐甲斐しくお世話して
くれて。うん、お母さん、と言うより
奥さん。私が公務をお仕事にしている
旦那さん?…そんな感じ。

私の希望としては、私が可愛い奥さん役
したいんだけど。…でも、よく考えたら
私の旦那様は次の国王となる方で、私が
夢みてた新婚家庭はまず無理そう。

しかも、まだお会いしたことの無い方
なのかもしれなくて。

…はぁ……。

お役目とは言え、なんて事だろうと
思う。ついこの間まで普通に城下で
暮らしていた私には理解出来ない立場。
慣れないレッスン。驚く程の量で内容の
座学。それから乗馬にダンスに…公務。
正直言って毎日がいっぱいいっぱいで
もうヘトヘト。そんな中、私を癒して
くれるのはいつもユーリで。

ユーリの淹れてくれる紅茶もそうだけど
それ以上に、あのユーリの人懐っこい
笑顔にどれだけ救われたか知れない。

どんなに失敗して落ち込んでても、
どんなに疲れ果てて帰っても部屋に
帰ればユーリが居て、あの笑顔で素の
私を認めて癒してくれる。

だから頑張れてるって言ってもいい。
今、私がプリンセスとして公務に立てて
いるのはユーリのお蔭。

この感謝の気持ちを伝えたい。
そう思っていた矢先、たまたま聞いた
ユーリの誕生日。

メイドさんたちがユーリの為にお菓子を
焼くんだと言っていて。
私は即座にその計画に賛同して、私も
参加したいとお願いしたのだった。

『プリンセスにそんな事、
お願い出来ません!』

そうメイドさん達には止められたけど、
ナイショで厨房を借りて、ユーリの
誕生日ケーキ作り。それから使ってない
客間を使ってのお誕生日パーティ計画。

ジルには1人の使用人の為にそんな事、
と渋い顔をされたけど、普段のお礼を
したいからってお願いして。

それが今日。
出来ればユーリを驚かせたい。
だから秘密に準備を進めて。

だけど今朝、髪をしてくれながら鏡の中
ユーリに真っ直ぐ見つめられて…


「今日、サラディナ様の予定に妙な
空白時間が有るんだけど…何か予定を
ジル様から聞いてる?」

「えっ?! しっ、知らないよ?」

「サラディナ様?」


鏡越しにジッと見る春色の瞳。
見つめられると…何か心の奥までも
見透かされてるみたいで。

慌てて視線を外して「知らない!」と
言ってしまった。
まるで怒ったような声で。

目を丸くしたユーリ。
その顔を見てられなくて。

私は理由を付けて部屋を出たのだった。


――流石にあれは無いよね…。
折角のユーリの誕生日なのに。


「ダメだなぁ…私。」


――こんなんじゃ駄目。
ちゃんとお礼を言うんでしょ?


「ユーリに、ちゃんと言わなきゃ。」

「……何を…?」


振り向くとそこには硬い表情をした
ユーリ。




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