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□この晴れやかなる日に
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「わ! ビックリした!
シド、今日は城で公務なの?」


――何だよその表情。
そんな嬉しそうな表情すんじゃねぇ。


「いや。今日は俺は公務じゃ無くて
私用で来てんだ。」

「私用? あ、ジルからの調査依頼?」


――違ぇよ。それだって仕事だろ。
俺からお前に逢いに来たんだっつの。
察しやがれ。 …って聞いてねぇのか?


「いや、そっちの方でも無ぇ。」

「…? じゃあどうし…え、あ…っ」


こいつを腕に収め笑う。
その華奢な体を俺の腕ん中に抱き。


「もっ、もうっシド! これから公務で
行かなきゃなんないんだからね!
あー…もう、髪飾りが取れちゃった
じゃない…。」


小さな手が、俺が崩した柔らかな髪を
掻き上げ、元のように整えようと動く。
前髪の隙間から見上げられた目が強気に
俺を睨んでるがその奥の光が甘いのを
俺が見逃す筈も無く。


「何だよ、つれねぇな今日は。
何時もはスグに蕩けちまうクセに。」

「そ…っそんな事ないもん!」


パパパッと顔に赤みが差す。
そんな顔して凄んでんじゃねぇよ。

――可愛いじゃねぇか。


「そんな事あんだろ。」

「…っ、ズルイっ! シドはその表情に
私が弱い事知っててやってるでしょ!」

「当たり前だろ。」

「もう…っ!」

「だから今日は公務だ何だと蘊蓄なんざ
置いといて俺と一緒に居ろよ。」

「え…でも、公務の予定が…」


真面目なお前。
そんなお前に俺が何の根回しも無く
誘いに来ると思ったか。


「ジルにゃ話を付けてある。今日の午後
からの公務『慈善事業主との懇談』の
相手は俺だよ。」

「えっ?! 」



「…ご心配無くプリンセス。シドが今
言った事は本当ですよ。今日の懇談は
グランディエ公との会食になります。」


まったく…ジルは猫みたいな奴だ。
物音もさせずに俺の後からプリンセスの
私室に入り込みやがった。…まぁ俺は
気配に気付いてたけどな。
俺の腕の中でジルの気配すら感じても
なかったサラディナは慌てふためいて
俺の腕から抜け出そうと踠いてる。

――何だよ、今更じゃねぇか。

ジルだって俺らの事は知ってんだから
そんなに慌てる事なんて何も無いだろ。

なんて思いつつ、腕に力を込める。
その様子にサラディナはもっと顔を
真っ赤にして、ジルは呆れた様に溜息を
吐き、腕を組んでいつもの冷静な声と
態度で言った。


「本日の公務はグランディエ公との会食
の後は明後日の朝までに慈善事業案の
書類に目を通して頂いてサインをし、
報告書を提出してさえ頂ければ特に
急ぎの公務はございませんので。」


そう言って奴は恭しく礼をし、俺らに
背を向け今入って来た扉へ手を掛ける。

全く食えねぇな。

ジルのその態度が確実にわざとだとは
感じつつ、つい言っちまうのは俺も
かなり浮かれてるのか。



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