Event

□陽重なりて晴れとなり
3ページ/4ページ


男に花を?
と思わなくも無かったけれど、
全く彼女らしい気もして。

でもこの花に限らず
美しくも可愛らしい花が似合うのは
君だろうに


そんな事を思いながら、頭の中の
キャンバスに君の輪郭をなぞっていく

美しいものを見た時、ついしてしまう
俺の癖で。

瞬く間に形を変えていってしまう美しい
ものの形を留め置くように

そんな刹那的な事を無意識でしてしまう
俺に彼女は言った。


「遠い国のシノワの方では9月9日は
『重陽の節句』と言うらしいんです。
奇数は縁起の良い陽数なんですって!
中でも一番大きな陽数が9だから、9の
重なる9月9日を、陽が重なると言って
『重陽の節句』って不老長寿や繁栄を
願う行事をするそうなんです。
素敵ですよね…しかもそのような日が
ロベールさんのお誕生日かと思うと尚更
素敵に思えて…それでそんなお話聞いて
いたらますますピッタリな気がして、
香りも良い重陽の節句に縁の深いこの
お花をロベールさんに差し上げたくて
買ってきちゃいました。」


――自国を滅ぼし、国を追われ
忌むべき命として他国を放浪して来た俺

そんな俺に陽の最たる君が言う。

人間不信に陥り自暴自棄で流れ着き、
潜伏していたウィスタリアの城下の街。

俺の心に光を届けたのは幼き頃の君。
その君が俺に陽であれ、と。

俺の命は佳きものであると…
そう言ってくれるのか。


彼女はそんな深い意味を込めて居ないと
知りつつも、思わずそう思ってしまう。


稀有なる女性。

この国を導き、光に迷える男ですら
見落とす事無く導いて。

ああ、貴女になら全てを捧げよう。
俺の見て来たものして来た事、そこから
予想されるこの先全ての黒い部分は
一手に引き受け、貴女に尽くそう。

そう傅きたくなる程に。


今は唯、しがない絵描きの身なれど。



「あのね、ロベールさん。このキクの
お花の上にコットンを被せて一晩経つと
お花の香りの露を含むんですって。
そのコットンで身を拭うと穢れも拭い、
厄災を落として長生き出来るそうですよ
今夜コットン被せて、明日一緒にして
みましょうね!」


そう言って笑う。

重陽の日に互いに拭い合うのは夫婦の
秘め事だと知らない彼女。

互いに長寿であれ、幾久しく末永く
そう願う相手を拭うのだと、昔シノワの
使いの者に聞いた記憶が過ぎる。


知らない彼女に罪はない。

でも知らずに煽った罪は重い。
俺の心に貴女となら、と
俺に思わせてしまった


貴女とこの先ずっと、と。


「明日のお誕生日、
一緒にお祝いさせて下さいね。
美味しいアップルパイも焼きますから」


そう言って微笑む貴女と
この先是非永久に共に…。


知恵の実(林檎)を齧っても共に居て
この先もずっと祝ってくれるかい?

俺の生まれた日を

この忌むべき佳き日が


貴女とならば最良の陽とならんと願い
全てのものに感謝して。














Happy Birthday Robert Branche!
2015.09.09xxx













end.

あとがきへ →
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ