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□この秋空に想う
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昨夜遅く、ユーリからの伝達。


『明朝、早めに来たらイイ物が見られる
かも。サラディナ様には内緒でね。』


こんな風にユーリから個人的に伝達が
来るのは珍しい。

サラディナの公務が押して予定時刻より
遅れてる、とかでの伝達はあるけど、
こんな謎かけみたいな伝達は初めて。


明日は俺の誕生日。


今までそれが何か特別だった事は一度も
無かった。だって誕生日とは言っても
俺は孤児で、この日は便宜上の誕生日で
しかなくて。だから特に目出度い日でも
嬉しい日でも無かったし。

なのに彼女は言う。

キラキラの眼をして俺を見上げ
『ルイの誕生日一緒にお祝いしたいの』
って…。本当に嬉しそうに。

自分の誕生日でも無いのに。


サラディナはいつだってキラキラしてて
俺の大切な、大好きな人。


出逢った時、彼女は唯の庶民で。
プリンセス選抜パーティに来ているのに
華美に飾らず、それ所か土に膝をついて
中庭でひたすら何かを探してた。

それが絵本の話にある願いを叶える白い
花だと知った時には、この子頭大丈夫?
と思ったものだ。俺も子供の頃は信じて
いた話だったけど。

その話を聞いた時はまだ教え子の為とは
知らなかったから、プリンセスに選ばれ
たいなら、そんな花に頼るんじゃ無しに
もっと派手なドレスを着てアピールした
方が早いんじゃない?って思ったんだ。

…俺はそんな女性は御免だけど。


でもその後の会話で、彼女の欲してる
白い花に託す願いがそんなんじゃ無くて
それ所か彼女自身の願いでも無く、唯の
教え子の為に此処まで来たのだと聞いて
…何て愚かなと思った。
そんな花、在る筈無いのに。

此処は貴族の万魔殿。
こんなトコまで来て、もしもこの城に
取り込まれたら…君の一生は台無しに
なってしまうのに、と。

結果、やっぱり彼女は選ばれて。

…そう、彼女の輝きを…ジルはやっぱり
見逃さなかった。

彼女は選ばれてしまった。


今となっては俺にとってそれがこの上も
無い幸せに繋がっているのだけれど。

彼女と出逢い、恋をして。


でも選ばれて最初の頃、彼女は散々で…
見るに見兼ねた。あの選民思想の強い
貴族の中に放たれた1人の庶民。

それは狼の中の仔羊の様で。

俺も経験したあの辛さ。
侮蔑の言葉、見下げる視線。
何よりもその拒否された空気感が痛くて

そんな中に置かれた彼女を放っては置け
なかった。

最初は同情。

…いや、初めて出逢ったあの中庭で既に
彼女に惹かれていたから、同情だけでは
無かったにせよ、それでもジルの俺を
次期国王に据えようと言う魂胆は確実に
見え隠れしていて。

その手には乗るものかと思っていた。

それなのに。


そんな城の思惑など露知らず、彼女は
いつ見ても真っ直ぐ健気で。何時だって
俺の顔見て安心した様に微笑むから。

次第に彼女を手放せなくなった。

他のヤツになんか任せられない。
彼女の笑顔を独り占めしたい。

彼女の手を引き、腰を抱き、ダンスだけ
でなく、一番近くに。

そう自覚したらもう止まらなかった。


彼女に想いを伝えたいのに言えなくて。
でも、そんな俺に彼女は言ったんだ。

俺が好きだって。

そんな風に、いつも彼女からは貰って
ばかりで。俺は君に何を返せるだろう。

彼女に俺が出来る事って…?


そう考え込む事も屡々(しばしば)な
今日この頃。

そんな矢先の俺の誕生日。
その誕生日にユーリの伝達。



一体なに?



そう思って、早朝から馬車を駆り出し
城へと乗り着けた。




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