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□貴方に貰ったこの甘やかさは
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【 貴方に貰ったこの甘やかさは 】


プリンセスレッスンを重ねてて思う。
ジルの博識さとその美しい作法。
何処までも完璧な教養とそれに基づく
身のこなしを。

『プリンセスの教育係』なんて任を負う
くらいなのだからそれは完璧なのが当然
なのかもしれないけれど。

それにジル程で無いにしても貴族の方々
っていうのは皆さん礼儀作法なんてのは
当然の教養かもしれないけど、ジルは
その中でも突出していると思う。

ルイも作法も対応も完璧だけど、誰にも
見えない壁があってとても事務的。
そこが『氷の王子様』だと女性には人気
なのだけれど。

アランはパーティに出席はせずに警護と
していつも壁際で睨みを利かせてるから
食事の作法とかは判んないけど、礼儀
正しいし、姿勢も美しい。

レオは人当たりは断トツで良くていつも
人に囲まれてる。その細やかな気配りで
社交界ならずとも女性の人気も高い。

…でもジルはいつもその中でも別格な
気がする。

いつも会場の端に居るのに、常に周りに
人が居て。…でもその人々は、ジルが
国王様の側近であるせいもあるのかも
だけど、厳かな雰囲気の方ばかりで。

その雰囲気は声掛け難く、女性達は常に
遠巻きにジルを見てる。溜息と共に。


…そんな人が私の好きになった人。


誰にも言えない事だけど。
ジル本人にも。

でもとっくにバレていると思う。
ジルは何でも見通してるように私を見て
笑うから。…でも私の気持ちには絶対に
触れない。

以前は私を揶揄(からか)って、恋愛の
駆け引きの様な言葉を掛けて来る事が
あったけど、私がジルの一挙一動に赤く
なるのはいつもの事なのに最近は私が
赤くなるとスッと引くのが判る。

レオに聞いた。
教育係のジルだけは…プリンセスの選ぶ
次期国王候補から除外されてる。
プリンセスを選抜する教育係が自分の
恋人をプリンセスに選んで国を掌握する
事を防ぐ為にも必要な事なのだそう。

だから…どんなに好きになっても、私は
ジルだけは選ぶ事は出来ない。

ジルもそれは知っているから。
だから私と距離置くのだと。


――そっか…。


私はその事を、がっかりした気持ちで
聞いていた。それで自分でも判った。
がっかりした時点でもう、明らかに私は
ジルに惹かれているのだと。

自覚と同時の失恋。

何も解らずプリンセスに選ばれ、今まで
頑張って来たけど、まさか自分でも…
こんな事になるなんて思ってなかった。

でも…そんな事を引き摺らずに私は前を
向き、進んで行かなければならない。

私を選んでくれたジルの為に
私に色々教えてくれた皆の為に


自分の恋心は封印して

何れは他の男性を選んで

生きてゆくのだ。
プリンセスとして。


でも、せめて…
11月の11日はジルの誕生日だと聞いた。
メイドさんたちの情報は様々な事に網羅
されてて、ジルの誕生日は彼女たちに
聞いた。

…でもそのメイドさんの情報網を以って
しても、ジルが実は甘い物が好きな事は
知られてなくて。

私は…以前ジルに頼んで直接聞き出した
この情報が特別な感じがして嬉しくて…
だからジルの為に、ジルの好きな甘い
お菓子を作る事にしたの。

ジルの誕生日に私だけが知る彼の好きな
甘いものを心を込めて作ろう。

そしてそれを最後にこの恋心は封印して
しまおう、そう思って。

想いの全てを込めて、
ジルの誕生日のケーキを作った。


公務の後、城の厨房の隅をお借りして。
1人真夜中に。



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