Event

□春の陽の如く
3ページ/4ページ



「お前の笑顔は愛らしくも美しいな。」

「えっ?! あ、あのっ、
ありがとうございます…?」

「ふ…、是非その笑顔を曇らすな。」

「は、はい…っ」

「お前をプリンセスに選んだ教育係の
目は確かだな。その笑顔は何よりも
お前の武器になる。」

「武器、ですか…?」

「そうだ。剣や槍ではなく、かと言って
肉体の様な直接的なものでも無く、
お前のその笑顔は春の陽射しの様に…
凍てつく心を溶かす力を持っている。」

「凍てつく、心?」

「ああ、俺の様な心の麻痺した人間にも
届く、最強なる武器だ。」


自嘲しているつもりは無かった。
…しかし、彼女はそう捉えた様で。
慌てた様に彼女が俺の袖口に縋った。


「ゼノ様は感情豊かなお優しい方です!
た、確かにその…少しご表情は読み難く
誤解され易いかもしれませんが…私の
ような者にまで気をかけて下さり、
この様に…アドバイスまでして下さる
なんて事、何方にでも出来る事では
決してありません…!」


なんて必死な表情(カオ)をして。
俺はそんな彼女の様子に更に心の奥が
温かくなるのを感じながら、彼女の手を
掬い取った。

その手に…今更ながら失礼な事をした、
とでも思ったのだろう、彼女が慌てて
手を引こうとするのを強引に引き留め、
唇を寄せる。


「ひゃ…?! 」


ビクリと跳ねる彼女の細い指。
…尚更もっと仕掛けたくなる。


「今度は余暇を以ってシュタインを
訪れるがいい。国中を案内してやろう」

「…は、はい…っ、是非…!
あっ、じゃあゼノ様がお越し下さった
時は私が城下の隅々までご案内します。
…ふふ、きっと普通の視察とかでは
見慣れない珍しい物が沢山ありますから
どうか楽しみにしてお越し下さいね。」


そんな、たわいも無い約束。

でもそれこそが、この無駄だとばかり
思っていた…無色な生誕祭を、色濃く
鮮やかに染め上げて。


「ああ、楽しみにしている。」


だってそれだけの遣り取りが、この日を
またこの立場を染め変えて。


「ええ、ご来訪をお待ちしております。
…それからシュタインへの逗留もまた
楽しみにご相談させて頂きますね。」


そう言って笑うお前の残像が、瞼の裏に
焼き付き、後日まで何度も何度も俺の
目の前を過ぎった。

まるで春の遅いシュタインで、待ちに
待った春が訪れ、その優しい春の陽を
浴びた時の様に、心を温かく…また
その笑顔が俺をふわふわと浮き立たせ。


是非また


社交界でも国交でも聞き飽きた、
その定型文がこんなにも心に響く。



ああ、彼女は何て

春の陽の如く。




そんな恋の始まりは
己の生まれた日

奇しくもそれが俺の生まれ変わる
きっかけになろうとは


サラディナ、

お前に逢えて本当に良かった。


王と生まれ、
王として生き、
王として死ぬ、

ただそれだけだったはずの俺の人生を
変えてくれて


ありがとう。


それが俺からの
お前に伝えたい一番の想い。


そんな想いを分かち合って









Happy Birthday Xeno Gerald!
2015.12.07 xxx








end.

あとがきへ →
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ