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□あなたの傍で
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【 あなたの傍で 】


階下から明るい声が聞こえる。


「ユーリ見なかった?」

「あ、つい先程あちらの方で
お見かけしましたよ?」

「ありがとう!」

「サラディナ様、廊下を走られたら
またジル様に叱られてしまいますよ!」

「あっ、ホントっ、ありがとう!」


パタパタパタと軽い足音が城の廊下を
駆けて行く。城の庭師は苦笑して再び
庭木の剪定に精を出し、鋏の音が中庭に
高く木霊する。

その様子を窓から見下ろしていたのは
騎士団長、アラン=クロフォード。


「珍しいね、サラディナちゃんが
ユーリを探してるの。逆はいつもの事
だけど。」


そんな彼に後ろから声を掛けたのは、
中央官僚であり、プリンセスの教官を
務めるレオ=クロフォード。
アランの双子の兄だ。

アランはその声に耳だけピクリと反応
したものの、特に振り向きもせず、下の
茂みを指で指し示した。


「え…? ユーリ何やってんのアレ。」


王宮の上階から全景が見える中庭には
先程サラディナが走っていた回廊の直ぐ
横の生垣に身を隠すようにしゃがみ込む
ユーリの姿。


「さあ。サラディナとかくれんぼだろ」

「ふぅーん…。それってさ、ユーリ、
自分を探してるサラディナちゃんを見て
萌え萌えしてるってコト?」

「…っ、あんたの発想ゲスいな。」

「えー、だってそれしか考えられ無く
ない? あ、ほら移動した。…面白そう
だなぁ、跡尾(つ)けてっちゃおうかな」

「…悪趣味だな。」

「そう言いながら、アランもちょっとは
気になってるでしょ?」

「あいつに危害が無いんなら、
俺の職務上は関係無い。」

「ふーん、俺の職務『上は』、ね。」

「――ウザい。」


そのままマントを翻しこの場を立ち去る
弟を見送る兄の目は温かい。


「素直じゃ無いなぁ…。」


もう一度中庭を見下ろせば、もう既に
ユーリの姿は無く、きっとサラディナの
元へと駆け付けて行ったのだと思った。


――まあ、うちの弟君もユーリも明らか
だもんね。サラディナちゃんに惹かれて
牽制し合ってるのが。


彼女は魅力的だ。
優しい声、態度、真面目な性質、それで
いて何処か天然で放っとけ無くて。
だから近くに居ればついつい構ってしま
って気が付けば訳も分かんないままに
嵌ってしまうんだろう。

ジルもよくもまぁ、ああいう子を選んだ
もんだと思う。あのプリンセス選抜の
パーティの日を思えば。

自身を精一杯で着飾り、我も我もと集る
城下の娘たち。我が身を飾り慣れている
貴族の淑女を見慣れた俺らには、正直…
どの子も今一つ垢抜けない田舎娘で。

職務だから笑顔を振りまいていたけれど
これからはこの娘たちの何れかが城の中
でも俺らに付いて回るのか…とちょっと
溜息なんてのも漏れたりしたんだ。

プリンセス制度はちゃんと理解しちゃ
いたけど、彼女たちのフィーバー振りを
目の当たりにしたら引いたと言うか…
腰が引けたと言うか。


そんな中、俺も彼女は印象に残ってた。
集団とは別に遅れて会場に入って来て、
しかもそれがアランを随(したが)えてて

まぁ、随えてた訳じゃないのは会場に
入って直ぐにアランがその場を離れて
行ったのが見えたから、迷子になってた
のを案内したのかな? 位に思ってた。

質素なワンピース、余程貧しい家なのか
彼女は清潔で身綺麗にはしていたけど
けっして『着飾っている』と言える程の
物は身に着けて居なくて。

…でも、何と言うか清廉なイメージで
好感が持てた。直ぐに貴族男に集って
行かなかったその態度も。

でも、中庭へ向かった彼女を目で追えば
中庭の奥には俺からは見えた目立たない
場所にルイが居て。

おや、と思った。

あの子、やるなぁ…ルイ目当てか。
でも、ルイは絶対そんな風に来る女の子
には靡かないのに、ご愁傷様。

そんな意地悪い目で見てたら、何故か
彼女はルイには目もくれず中庭の花壇を
弄り出した。


――?

俺のサラディナちゃんの第一印象は、
そんな『不思議ちゃん』だ。

そういう意味とはまた別に謎だったのは
ユーリもだけど。



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