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□あなたの傍で
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ユーリはユーリで今回のプリンセス制度
施行にあたり募集された王宮新参者だ。

プリンセス制度は現陛下に御子が無く、
また陛下のご兄弟なども無い場合に限り
適用される。…つまりは今まで前例が
そう多くは無い。

だからこそ陛下のご容態が思わしく無い
この現状まで施行に踏み切れずに居た訳
だが、今回この古い試みに賛否は勿論
別れていた。

陛下を始めその右腕とされるジル、また
古くから王家に仕える家臣たちは制度に
賛成し、古式に則り城下のプリンセスを
迎え入れる手筈を進めた。

だが革新派というのだろうか、有力貴族
の中には我が家から次期国王を輩出せん
と目論む者も居て、プリンセス制度の
反対派と賛成派に分かれ、貴族の中で
派閥争いにまで発展しそうになって
しまっていた。

それを抑え込んだのがジルだ。
…とは言っても表立って動いたのは他の
大臣クラスの古参たちだったけど、俺は
知ってる。実は、ジルがその裏で糸を
引いていたのを。

もしかしたらジルは最初からプリンセス
に目星を付けていたのかもしれない。

幾ら王宮の中が派閥争いで乱れ掛け、
そんな他国に攻め入られる隙になろうと
プリンセス制度は確実な勝算が無ければ
かなりの危うい手段だと俺には思えてた
から。

でも結果的にサラディナちゃんという
稀代のプリンセスが選出され、王宮内は
平和を取り戻している。


――そんな背景で。

城下上がりのプリンセスの為に彼女の
身の回りの世話をするメイドを始め城の
使用人が新しく増やされ、その中には
プリンセス付きの執事や、増員された
近衛兵も選抜された。

いざとなったら彼女を護る盾の役目も
担う執事には、日頃のプリンセスの公務
への配慮も出来る文武両道、且つ様々な
条件が課せられる。

即(すなわ)ち、嫡子でない貴族の子弟が
募集には多く集まった。あわよくば城下
上りのプリンセスと懇(ねんご)ろになり
運が良ければ次期国王に、などという
思惑もチラホラ垣間見れ…またそれは、
選定委員からしても狙いでもあり。

独身貴族男性なら一応一律に、教育係の
ジル以外は次期国王候補たる権利がある
…これが制度の大前提。

つまりプリンセスは独身の貴族男性なら
誰でも選ぶ事が可能なのだ。

また、それを逆手に取った…とも言える
使用人選抜。


その中で、田舎貴族の紹介でその会場に
現れたユーリは群を抜いて見目が良く、
またその明るい性質は直ぐに審査員の
目に留った。

執事としての振る舞いも優雅で、また
特筆するに剣技が上手かった。

俺の目には上手いと言うより実践上で
慣れている様に映ったのだけど。

何処か胡散臭さを感じたものの、そんな
勘だけで古参大臣たちの推しを跳ね除け
てしまう訳にも行かず。
気が付けばユーリは最終選考にも残って
居て。俺が胡散臭く思いながら確認した
紹介状には怪しい事など一つも無く…
彼は見事、執事となった。

上手く言えない違和感。

そう、しっくりいき過ぎて腑に落ちない
…そんなモヤモヤしたものを初見から
感じていた、ユーリには。

選抜の日、アランは居なかった。
国境でのいざこざがあり、隊長自らが
調整役として出向いていたからだった。

アランがあの剣技を見ていたらこのモヤ
っと感を共有出来たかもしれない。

後々、ジルも同じように思っていたと
共通見解を話し合う事になるんだけど、
当時はこのプリンセス制度の施行準備で
ずっと出ずっぱりで走り回ってたジルを
呼び止めてまでするには余りにも抽象的
過ぎる感情で言えなかった。


そんな風に、ある意味『疑われてた』
彼は本気でクロ。

そんな事実を突き止めてしまえば流石に
もうこれ以上放し飼いにしていてもいい
ものかどうか悩む所で。


でも

あのユーリの目。


それは真っ直ぐにサラディナちゃんを
…サラディナちゃんだけを見つめていて

見て居て眩しいくらい。


さて、どうしたもんか。

そんな変に悩んでしまうくらい、
ユーリはこの城に馴染み過ぎていた。


そう…それは、ユーリの正体を知る
俺らの共通認識。


ユーリのサラディナちゃんへの
忠誠は信用出来る

だけど

ユーリの立場は信用出来ない。


しかも今、ややこしい事に彼女を護る
手は一つでも多い方がいい程、暗躍する
反プリンセス制度組織なんてのがある
って噂もあったりして。

事実の方はまだ掴めて無いんだけどね。


そんな中で見る、ユーリの恋心。

…うん、あれは恋心だと思うなぁ…。
しかも手に入れられない高根の花的な。


身分違いの恋。


そんな泣かせる恋の話、
ちょっと見ていたくなるじゃ無い?




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