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□碧色の日々は
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アルは相当な馬鹿だと思う。

いや、頭は悪くない。
それ所かシュタインの貴族の子弟が通う
学校に行ってれば、1〜2位を争う秀才
だったらしいし。

行ってれば、だけど。
アルはゼノ様のお付きとして幼少から
あの方と共に、城の家庭教師達に全てを
習った。

ゼノ様がそう望んだんだって。

まぁ当時は前王の悪政で貴族の子弟教育
にまで力は入れられてなくって、育った
奴らなんて皆、保身の為のイエスマン
ばっかの教育メインだから、行かなくて
良かったんだろうけどさ。

それでも、国の未来を憂い、教育水準の
低下を嘆いた教師連中も居て。
ゼノ様はそういった先生を探し出しては
保護して来た。それが今のシュタインの
若手教育の中心になっているからこそ、
あの国はこうも大国へと成長出来たんだ
けど。

…って話はズレた。


そう、アルは『お勉強』は出来るんだ。
それこそ軍事的参謀とか、あとそうだな
ゼノ様のお立場を確立する為の算段とか
そういったのには超人的な才能を発揮
する。

これに関しては、かなり有能なレベルの
ウィスタリアの連中も、敵わないかも
しれないなんて俺は思ってる。


でも


事、気持ちの機微とか恋愛とかに関して
アルは本当に全くの馬鹿。

流石に騎士隊の栄え抜きで、荒事だって
熟してきた男だから、騎士隊恒例の休日
洗礼を受けてるし、女を知らない訳じゃ
無いけど、あの初心さって言うか物慣れ
無さはあの年の男ではあり得ない。


俺もゼノ様も……
そう、ゼノ様も気付いてるアルの気持ち

それをあいつだけが気付いてないんだ。


サラディナ様に惹かれる気持ち。


それを言うなら、俺だって惹かれてる。
たぶんゼノ様も。

でも

俺は俺の身分で
ゼノ様はゼノ様のご身分で

気付いてはいけない気持ち
伝えてはいけない気持ち


でもアルならば。

ゼノ様のご生家であるジェラルド家の
直属の家臣の貴族の出。

ゼノ様の乳母である母親も貴族。
そんな家柄のアルなら、ウィスタリアの
プリンセスとだって釣り合いは取れる筈

俺は平民出のメイドがジェラルド王の
手慰みで出来た子だけど…さ。

異母兄弟なんて烏滸がましい。
俺とゼノ様じゃ血筋が全く違い過ぎる。

王家の正当な血を真っ当に受け継ぐ、
王の中の王であられるゼノ様。


俺はあの方が探し出してくれなければ、
母を亡くし城下の裏路地で野垂れ死にを
しても可笑しくなかった私生児の孤児。

だから生涯兄だなんて呼べない身だけど
ゼノ様に一生お仕えするんだって心に
決めていて。


そんな俺が心惹かれた女性。
死んだ母の様ように心優しく聡明な女性
サラディナ様。

本当ならば彼女をゼノ様と娶(めあわ)せ
たい。…俺の全てを懸けてお仕えする
ゼノ様と俺の心酔する女性サラディナ様
だからこそ。


でも、彼女の課せられた事情的には…
そうもいかなくて。

それはゼノ様も、思っていらっしゃる
ようだった。
遣り取りするウィスタリアの内情、でも
ゼノ様はウィスタリアの内情より色濃く
サラディナ様の身を気にしておられた。

繰り返す「彼女を守れ」という言葉。
有り難い「お前に託す」というお心。


そんな葛藤の中気付いた、アルの視線。

最初はゼノ様のお相手として彼女を試し
その言葉の端々で彼女を見下げていた
アルが、彼女の周りと同じように彼女の
魅力に傾倒していく様を見て来た。


気付いてる?

お前、
彼女が走り寄ると目尻が下がってんの。
彼女の笑顔につられてめったに見ない
優しい顔になってんの。


騎士隊の間じゃもう噂だ。

冗談も通じない堅物のお前にそんなの
振る度胸のある騎士なんて居ないからさ
お前の耳には入ってないだろうけど。


それなのに


何あの提案。
しかもジル様の同意って。

それってもう今にでも
スグ実行されそうじゃん。

お前は知らないかもだけど、ジル様って
あれで即実行の人なんだぜ?

有言実行は勿論の事、
無言実行、行動ありき。

…ある意味ゼノ様に似てるけど。


ああ、そうかだからアルはジル様には
一目置いてんのか。

んん、そんな事は今どうでも良くて。


お前どうすんの?

このままじゃサラディナ様は…

そうだな、

ゼノ様だって…
彼女の事憎からずなんだから
そのままサラディナ様王妃に据えちゃう
かも。


あれ?

俺としてはそれが望みじゃなかったっけ
俺の敬愛するゼノ様と
心酔するサラディナ様…。


そうだよ
それでいいんだ。


そう思うのに、
何でこんなに胸が苦しいんだろう。

ゼノ様なら、って思うのに


ああそうか、一生お二人を傍で見続ける
覚悟が無かったのかも

お前なら

アルなら頭もいいし身分も高い
ウィスタリアで彼女を幸せに出来るから

自分の代わりに彼女と幸せにって
思ってたのかな


俺って恰好悪い



でも

それ以上にアル、
そんな自分の気持ちにも気付かずに
自分でドツボに嵌ってるお前のがもっと
恰好悪いよ


分かってる?


俺の言った意味、もう一度考えてみな

俺は俺でゼノ様にお気持ち聞いてみて
サラディナ様の為にもどうすんのが一番
なのか、相談してみるからさ。


ああもう全く世話の焼ける。

アル、お前も俺の中じゃ兄弟みたいな
近さだけど、全然不安要素の無いゼノ様
と違ってお前には色々気掛かりばっかり


お前みたいな奴
サラディナ様に面倒見て貰え。


彼女はとても面倒見が良いから
きっと理想の奥さんになる。

お前の国王な姿も悪くないしね。
俺はゼノ様にお仕えして、
サラディナ様とゼノ様と、お前の間を
行き来するんだ。


ほら、理想だろ?



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