L!

□知らないLove 教えてLove
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それは、熟れた果実が引力に従って地面に吸い込まれるように。ストンと私の心に収まった。


穂乃果と付き合うことになった。といっても、これといった進展はなく。ただ、穂乃果との以前より近く感じるようになったというか、スキンシップが多くなったという程度。私は何かするでもなく、受け入れているだけ。
そんな関係が続いて1ヶ月。二人きりで部屋でまったりと過ごしていた時だ。穂乃果が不安そうに聞いてきたのは。

「ねぇ、海未ちゃん」

「はい、なんですか?」

ゆっくりと両手で私の両頬を包み込み、此方を窺うその瞳は揺れていた。まるで、怯えるように。

「海未ちゃんは、ホントに穂乃果が好きなのかな?」

「…」

いつか、こうなるとは予想していた。言わなければ、きっと穂乃果は不安になると。

告白されたあの日。
私は、何も考えてることもなく、本能的に返事をしてしまった。穂乃果のことは好きか嫌いで言えば圧倒的に前者である。
ただ、私の返答に心から嬉しそうな顔をする穂乃果に、伝えなければならないことは言えなかった。

「…海未ちゃん」

何も言わない私に、穂乃果は今にも泣きそうな顔をして、頬を包む手は震えている。

「穂乃果」

びくりと、今度は身体全身で反応。怖がらせるつもりはないのだが。

「先に謝っておきます、ごめんなさい」

「…っ、なんで、謝るの!?」

違う。そんな顔をして欲しい訳じゃない。貴女が泣く必要も、悲しくなる必要もない。

「本当のことを言うと、実はよく分からないんです」

「…え?」

素直に本音を漏らせば、涙を引っ込ませて随分間抜けな顔をしている。

「告白されたあの日、私は咄嗟にイメージしたんです。穂乃果の隣に自分以外の誰かが居る光景と、自分の隣に穂乃果ではない誰かが居る光景を」

「…うん」

穂乃果は不思議そうに私を見上げ、言葉の続きを待っている。頬を包む手は私が喋り易いようにか、肩に移動していた。

「違和感しかありませんでした。次にイメージしたのが、穂乃果と私が並んで歩む光景です」

息を飲む音が聞こえた。そんなに心配しなくてもいいのに。

「凄くしっくりが来ました。あぁ、これでいいんだと。だから、ごめんなさい」

「なんでまた謝るのさ?」


否定されてはいないことに安心したけど、意味は分からないと言いたげに穂乃果は口を尖らせている。
何だかそれが無性に可笑しくて、ふふと笑うと、更に口は尖ってしまった。

「あんな熱烈な告白を受けておいて、こんな淡白なお返事で。という意味の謝罪です」

告白の言葉を思い出したのか、穂乃果は恥ずかしそうに胸元に顔を埋めてしまった。

『海未ちゃんが好きですっ!!誰にも渡したくありませんっ。だから、私と付き合って下さい!!??』

あれは確か、後輩から告白を受けて、申し訳なかったけどやっぱりイメージしたら違和感しかなくて、出来るだけ傷付けないように丁重にお断りした。それを、穂乃果に目撃されてもの凄く複雑そうな顔をしていると思った矢先の数日後だった。
唐突であまりにも熱烈な告白だったので、今でもはっきり覚えている。

「でも、それってつまり、海未ちゃんは隣に居るのが穂乃果以外は嫌ってことだよね?」

恥ずかしさから復活したのか、穂乃果は此方の真意を窺うように、上目遣いで顔を覗き込んで来た。
意外と核心を突いて来ますね。

「貴女に好意は抱いているは確かです。ですが、どうも色恋沙汰には不得手で、分からないんですよ。恋愛というものが」

これはあの時、言えなかった言葉。言いそびれて、不安にさせてごめんなさい。

「だから、いつものように連れて行ってくれませんか?私を、未だ見ぬ世界へ」

「〜〜〜っ!?」

先の穂乃果のように頬を手を添えて言ってやると、顔を真っ赤にして抱き付いて来た。

「ねぇ、聴こえる?穂乃果、今すっごいドキドキしてる」

「聴こえ、ます」

何故だろう、今までは平気というか、当たり前だった筈だ。なのに、

「…海未ちゃん、顔紅い?」

言葉にした途端、意識してしまったからだろうか。

「穂、乃果」

ただ、目の前の穂乃果が愛しくて、心臓が痛い程速鳴っている。

「なんだ、もう分かってんじゃん」

愉しそうに笑う穂乃果は、自然な動きでゆっくり距離を詰めて。これから何が起こるか、理解した上で私は抵抗する選択肢を放棄した。
初めて重ねた唇の感触は、忘れることはないだろう。それが、私の好意が確実に、恋だとか愛だとかに変わった瞬間だった。



END
 

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