L!
□sweet present
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「…穂乃果」
「なぁに、海未ちゃん」
「今日は、私の誕生日の筈ですよね?」
「うん、そうだよ」
そうですか。でしたら。
「私が押し倒されている理由を400文字以内で答えなさい」
「作文っ!?」
事が起こったのは、小時間前。
今日は珍しく練習のない休日だった。だから折角なので、μ'sの練習スケジュールを練り直したり、歌詞製作に没頭したりと過ごしていたのだけど。
途中、幾つかやって来たメールに、擽ったい気持ちを覚えながら返信して、束の間の休憩を置いて、もう少し歌詞を纏めようと机に向かったところ。突然扉が開け放たれ、「誕生日おめでとう、海未ちゃん。プレゼントは穂乃果だよっ」等と言いながらポーズ付きで現れるものだから、笑顔で扉を閉めてしまおうとしたら、思いの外抵抗されたので、取り敢えずおでこを小突いて置いた。
「全く、貴女という人は」
悪態を吐きながら、こっちが本物と手渡されたおまんじゅうにかぶり付く。出来立てらしく、まだ温かい。
先の言葉はどうやら、私が慌てふためく姿を想像して冗談半分で言ったらしい。
「ごめんごめん。でもちょっとくらい吃驚して欲しかったな」
「穂乃果の悪い冗談は聞き慣れてますから」
たまに冗談であって欲しい本気もあったりするけれど。というか、謝りながらも口を尖らせてる辺り、あまり反省はしてませんね。
「ね、海未ちゃん」
「はい?」
「美味しい?」
「…はい」
でしょ?と、穂乃果は得意気に笑う。幾つかのメールで既に祝われてはいるけど、やっぱりなんだかんだでこうやって直接祝われるのは嬉しい。
「ところで、海未ちゃん」
「ふぁい?」
最後の一口を頬張ると同時に、何故か穂乃果が身を乗り出して来た。
「おまんじゅうだけじゃなくて、穂乃果は食べないの?」
「んぐっ!?」
さっきまでおまんじゅう作ってたから美味しいかもよ?とか言ってる場合じゃないです。息がっ…。
―間―
「誠に申し訳ありませんでした」
「全くです」
目の前には、床に頭を擦り付けた土下座スタイルの穂乃果がいる。
誕生日におまんじゅうを詰まられて死にかけるとか冗談ではない。穂乃果が咄嗟に背中を叩いたり擦ったりしてくれたから事なき事を得たけれど。
「まぁ、悪気はないでしょうから、そろそろ顔を上げて…」
「その、お詫びに穂乃果のこと好きにしていいから」
「…穂乃果」
言い終わる前に、何やらとんでもない発言をされた気がするのですが。
「あまり質が悪いと本気で怒りますよ?」
「ひぃっ!?」
怯える穂乃果に、やれやれと溜め息を溢しながら手を差し出す。流石に、誕生日に説教するような気分にはなれないし。
「怒りませんから、早く顔を上げて下さい」
そして、パアッと明るくなった顔が見えたと思ったら。
私はそのまま抱き付かれて押し倒されていた。
冒頭に戻る。
「んーっと、こうしたかったじゃダメかな?」
「10文字にすらなってないじゃないですか」
「じゃあ、」
穂乃果の蒼い瞳がすっと細められた。あ、これアカンやつです!?
「海未ちゃんが美味しそうだったから、かな」
「ちょっ、穂乃…むぐっ」
それから、夢中になって唇を貪られた。まぁ、私も無意識に抱き締め返していた訳だけど。
誕生日なのにやられっぱなしは、やっぱり悔しい。
「穂乃果」
「ふぁ?」
キスの繰り返しで力の入らなくなった穂乃果を押し倒すのは、簡単だった。
「折角頂いたプレゼントなので、やっぱり食べることにします」
…宣言したは良いけれど、凄く恥ずかしくなって来ました。
「…うん、いいよ」
それでも、へにゃりと笑う穂乃果の顔を見ると引き返すこと等出来る筈もなく。真っ赤になった顔を隠すように首筋にかぶり付くと、穂乃果は嬉しそうな悲鳴を上げた。
fin