L!
□Lock my heart
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「希」
大好きな声で、意識がゆっくり覚醒する。
そっか。昨日、やなくて今日。日付が変わった瞬間に真っ先に祝われて、それからいっぱい愛されて。部屋が明るくなってきてるから、朝なんだろうなぁ。起きなあかんなぁ。でも、もうちょっとこのままでいたいなぁ。とか考えてたら、小さな溜め息が聞こえてきた。
あ、にこっち、呆れてる?
「ちょっと出てくるから」
瞬間、心にちょっと痛みが走る。今日くらい、ずっと一緒に居たかったけど。
でも急な用事出来たんかな?ならしゃあないなぁ。なんて、無理矢理納得していると。
「アンタも外出る用事あるなら、鍵は掛けておいてね」
手の平の中に、ひやりとした物が乗っけられて。
やっぱり、置いて行かれるんだと思ったら、素直に行ってらっしゃいなんて言えなくて。ベッドから離れる足音を聞きながら、渡された鍵を見詰める。
この空間の鍵。にこっちが暮らしてて、たまにウチがやって来て。もしかしたら自分の住処より、一緒に居ることの多いかもしれない、大好きな空間の鍵。
「あれ?」
良く見ると、可愛らしいリボンが付いてる。ピンクと紫のリボン。にこっちとウチのイメージカラー。それだけのことで、じんわりと心が温かくなるものだから、重症やと思う。
こんなことされたら、深読みしてしまうよ?なんて、リボンをなぞっていると。
「え?」
端っこの小さな文字を見て、一瞬だけ頭が真っ白になって。一気に意識が覚醒する。
ウチは着替えなど忘れて無我夢中で立ち上がった。
「にこっちぃぃぃっ!?」
丁度ドアノブに手を掛けてたにこっちはギョッとした顔で振り向き、酷く呆れた顔をしていた。
「服くらい着なさいよ」
「脱がせたんにこっちやん。それよりこれ」
「何、要らない?」
説明を要求するつもりで鍵を見せ付けると、なら返せと手を伸ばすものだから、慌てて引っ込める。
「丁度いいかと思ったのよ」
「何が?」
「日付的に」
頭に?が浮かんで踊り出す。日付的に?今日は、ウチの誕生日。プレゼントに丁度良かったってこと?ん?今日何日やったっけ。今日は。
6月9日。ロックの日。=丁度良かった、鍵的な意味で。
「駄洒落かぁぁぁい!?」
ウチの盛大な突っ込みがつぼったのか、にこっちは愉しそうに笑ってる。その笑顔すら好きだと思ってしまうのだから、本当に重症や。
にこっちは一頻り笑うと。
「予約してたケーキ貰ってくるから、少し待ってなさい」
手を伸ばしてウチの頭を撫でると、ドアを小さく開けて出て行ってしまった。ご丁寧に、外からしっかり鍵を掛けて。
あぁ、なんか悔しい。でも、それ以上に嬉しい。
改めて、渡された鍵を見詰める。リボンの端っこには、ウチの名前。わざとらしく鍵を掛けて行ったということは。これはウチの為に作ったスペアキーということで。
好きな時に逢いに来てもいいってことで。
顔が真っ赤になる。なんやこれ。あぁ、もう。
「にこっちのアホ」
幸せな気持ちと裏腹に口から出たのは。憎まれ口。
でも、嬉しい気持ちは抑えきれなくて。本当にこれが本物だと確かめたくて。
ウチは銀色の鍵に、そっと唇で触れてみた。それは、冷たいのに何処か暖かい彼女に似た感触だった気がする。
fin