L!

□とある吸血鬼と眷属さんの少し後の話。
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「は、ふぁ」

全身に、言い様のない快感が駆け巡っている。

ふわふわ。
ぽかぽか。

身体も、心も溶けてしまいそうな感覚。

「きもち、い」

思わず漏れてしまった言葉に、自分でもびっくりしながら、ちらりと視線を動かすと、海未ちゃんは少し驚いたように琥珀色の瞳を見開いていた。
でもそれも一瞬のことで、直ぐに優しそうな笑みを浮かべて、頭や背中を撫でてくれる。

「…ん」

それがまた気持ち好くて。この上なく、幸せだなって。心から思う。
吸血鬼になってしまった時は、こんなに幸せな気持ちになるなんて、思いもしなかった。

眷属になってくれた海未ちゃんの血は、どうやら私の身体と相性が良すぎるらしく。吸血の度に、私はこの快感を味わっている。

その度に、私ばっかり幸せで、気持ち好くて、申し訳ないなって思う。

「ね、海未ちゃん」

「はい?」

「私、何かお礼出来ないかな?」

だから、思い切って言ってみたんだけど。海未ちゃんは困ったような顔をして言った。

「見返り目当てで眷属になった訳ではないのですが」

知ってるよ。海未ちゃんがそんな人じゃないことくらい。でも、この感謝の気持ちを少しでも返したいんだ。
私の気持ちが変わらないのを、視線から理解したのか。海未ちゃんは少し考えるような素振りを見せた後、思い付いたように口を開いた。

「では、穂乃果の作った揚げまんじゅうが食べたいです」

揚げまんじゅうは、穂乃果の得意料理だ。そんなんで良いのかなって思ったけど、海未ちゃんがそれを求めてくれるのが、嬉しくて。

「待ってて、直ぐに作ってくるからっ」

期待に応えたい一心で、私は部屋から飛び出した。
お母さんに海未ちゃんのために揚げまんじゅう作りたいから厨房使っていいか確認したら、穂乃果の作ったの買いたい人もいるから、ついでに幾つか作るように言われて。私の成長を見守ってくれてる常連さんかなって、照れ臭い気持ちを感じながら。心を込めて揚げていく。勿論、海未ちゃんの分にはありったけの愛を込めて。
そうして、幾つか作ってたら思ったより時間が経ってて。その間に、お母さんが淹れてくれたらしいお茶と出来立ての揚げまんじゅうを盆に乗せて、落とさないように気を付けながら部屋へと急ぐ。

「海未ちゃん、お待た…せ?」

襖を開けると、海未ちゃんは私のベッドにもたれ掛かって、すやすやと寝息をたてていた。
なるべく音を発てないように近付き、盆をそっとテーブルに置く。

「疲れてるのかな?」

毎日、お家の稽古して、弓道部の部活に励んで。授業だって真面目に受けて、たまに予習や復習してるみたいだし。
それでも、いつだって疲れた顔もしないで、定期的に私に血を飲ませてくれる。
そう思ったら、胸を締め付けられるような気持ちになってきた。

「…海未ちゃん」

そっと頬に手を添えると、海未ちゃんはゆっくりと瞳を開けた。

「あぁ、すみません。居眠りをしてしまって」

「海未ちゃん、疲れてるの?」

「いえ、最近考え事をしていて。少し寝不足なだけです。揚げまんじゅう、美味しそうですね」

いただきます、と海未ちゃんは誤魔化すように、揚げまんじゅうに手を伸ばし、口に運ぶ。

「うん。絶妙な揚げ加減です。また上達しましたね」

それは多分、本心から言ってくれてるのだと思う。嬉しいけど、穂乃果の内心は穏やかじゃなくて。

「ねぇ、その考え事、穂乃果じゃ力になれない?」

穂乃果はこんなに、海未ちゃんから幸せをもらってるのに。海未ちゃんは幸せじゃないなんて、嫌だ。何も出来ないかもしれないけど、それでも。

穂乃果は、海未ちゃんの力になりたい。

海未ちゃんは困ったように笑っていたけど、穂乃果の並みならぬ熱意を感じ取ってくれたのか、揚げまんじゅうをひとつたべきると、お茶を一口啜って一息吐いた。

「ずっと、考えてました。穂乃果と、私の関係について」

思わず、身体が強張ってしまった。もしかして、眷属ではいてくれるけど、やっぱり恋人は嫌だって、そういう話、かな。

「穂乃果ははっきりと気持ちを伝えてくれたのに。私だけ、中途半端なままではいけないと。明確に答えを出すべきだと、そう思ったんです」

嫌だ。聴きたくない。
別れの言葉なんて。

「穂乃果」

下を向いてギュッと目を瞑った瞬間、想像してなかった感触がやってきた。
唇に、ほんのりあんこの味が。

「へ?」

間抜けな声を上げて顔を上げると、其所には顔を赤らめながらも、穏やかに微笑む愛しい人。

「改めて、お願いします。高坂穂乃果さん」

その笑顔に惚けていると、更なる爆弾が投下された。

「私の、恋人になって貰えませんか?」

「っ!?」

吸血鬼の吸血の衝動は、幾つかあって。大体は、生命維持の為に血が飲みたくなった時。他には、目の前の恋人が、心から愛しいと思えた時。


私は、返事の代わりに。
思い切り彼女の首筋に食らい付いた。

直後に雷が落とされたのは、言うまでもないけれど。









「…嫌われたのかと思いましたよ」
「ごめん、それだけはない」
「なら、いいです」
「へへ、これからまたよろしくね」
「…はい」



fin

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