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□杏子とブーツと愉快な仲間達
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「くっそ、何処行きやがった!?」
今日遭遇した魔獣は雑魚みたいなものだった。一人で余裕で倒せたし。魔獣が落としたグリーフシードを拾い上げ、変身を解こうかと思いきや、どうやら呪い持ちだったらしい。変身が解けない。仕方なく、このままの姿で人気のない路地裏を歩いてた時の事だ。
早業だった。
片足を上げた瞬間、そいつはあたしのブーツをくわえて猛スピードで走り去った。
「てめぇっ!?」
咄嗟のことで転けそうになったが、なんとか受け身を取り、直ぐ様跡を追う。後ろ姿を見るに、どうやら野良犬らしい。
片足が裸足では危険なので、魔法で簡易的なブーツを拵えた。
そんなこんなで冒頭に至る。
情けないことに見失った。こうなったら、格好なんて気にしてる場合じゃない。とにかく、手当たり次第でも探さないと。
と、路地裏を抜けた辺りに、よく知った顔に出会した。
「あれ、杏子。どったの?変身も解かないで」
「さやか、丁度良かった。ブーツ喰わえた小汚ない野良犬見なかったか!?」
「今、此処にアンタが」
「殴られたいか?」
さやかはジョークジョークと腹の立つ顔で笑いながら、ずいっと何かを差し出した。
「ま、これでも食べて取り敢えず落ち着きなって」
「おぅ…サンキュ」
買ったばかりらしいたい焼きを受け取って、食べながらこれまでの経緯を説明する。
「アンタにしちゃドジったね。いろいろ」
「うるせぇ」
「ま、こっちでも捜してみるよ」
「悪い、頼んだ」
なんだかんだで、仲間っていいよな。なんて考えながら、あたしは再び野良犬捜索に戻る。
次に出会したのは。
「あら、杏子。街中でその姿は止めた方がいいわよ?」
「ほむらか。これには理由があるんだよ」
「無性にひらひらの服で街中を歩きたくなったの?」
「どうしてそうなる!?」
―間―
「成る程。呪いを受けた上に、野良犬にブーツを奪われるだなんて。貴女にしては抜けてるわね」
「うっせえ。これでも凹んでんだよ」
「まぁ、私も捜してあげるわ。見付けたら射抜いておくわね」
「えらい物騒だな。そこまでしなくても取り返せればいいよ」
ほむらは冗談と言っていたが、大丈夫だろうか。一抹の不安を覚えながら、ほむらと別れた。
「ホントに何処行きやがった、あのバカ犬」
「お困りみたいね」
柔らかな声に振り返ると、其処には。
「マミっ」
「事情は美樹さんから聞いてるわ」
あいつ、余計なことを。まさか、仲間皆にこんな恥ずかしい事態を知られた上に、手伝わせてしまうとは。反省、明日から気を付けよう。
「困った時はお互い様」
顔に出ていたのか、マミはウインクしながら笑って見せた。
「えっと、確かその野良犬は佐倉さんのブーツを持ってるのよね?」
「あぁ」
「だったら、その魔力を辿ればいいんじゃないかしら?」
「あ」
どんだけテンパってんだ、あたし!?そんな初歩的なことすら忘れてるなんて。
「取り敢えず、その魔力から捜してみましょうか?」
「…はい」
頭を抱えて悶絶してたら、マミは苦笑しながら、早速あたしの魔力を捜し始めた。
結局、野良犬はあっさり見つかった。それは良かったんだが。
「どういうことだ、おい」
「…これは」
辿り着いた先は、ブーツまみれだった。あの犬、ブーツマニアか?
自分のブーツを拾い上げると同時に、背後から殺気を感じた。
「やべぇ、逃げるぞ!?マミっ」
「えぇ」
尋常ではない殺気に、あたし達二人は飛ぶように逃げた。背後に居たのは、ブーツマニアだった。
それからというもの、あの野良犬はあたし達を狙うようになってしまった。
数日後。
「てめぇ、また来たのかっ!?」
路地裏にて、ブーツマニアとあたしの攻防戦は、今日もまた始まっていた。
END